50代はカッコつけたい!――宮藤官九郎さんの舞台、健康、そして娘への思い
 
            宮藤官九郎さんが作・演出・出演する舞台、大パルコ人⑤オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』は、ミュージカル俳優と演歌歌手の夫婦が息子の親権を争う法廷ロックオペラ。そしてテーマは「親バカ」! 脚本家、演出家、俳優として活躍し続け、常に面白さと気づきをくれる宮藤官九郎さんに、作品のこと、父親としての話、そして、健康のことについて聞きました。
うちの娘は、僕が父親でイヤだろうな、と考えたりもするんです。
――ロックオペラ「大パルコ人」シリーズの4年ぶりの新作は、ミュージカル俳優を演じる阿部サダヲさん、演歌歌手を演じる松たか子さんをはじめ、今回も豪華キャストですね。
阿部くんと松さんは今夏のドラマでも夫婦役を演じていましたが、実は僕のほうが先にオファーしてるんです。僕も松さんとはドラマ『カルテット』で夫婦役やってるし(笑)、その前に舞台『メタル マクベス』(宮藤さんが脚本を手がけた2006年の劇団☆新感線の舞台)でご一緒したとき、松さんの歌唱もお芝居も突き抜けてて素晴らしかったので、いつか大パルコ人にも出てもらいたいなと思っていました。
阿部くんは、シリーズの1作目(2009年の『R2C2』)以来ですが、バンドのメンバーなのでライブも定期的にやってます。打ち合わせでふたりの名前が出たとき、ふと「法廷ものをやりたい」と思ったんです。
――裁判を傍聴されたことはありますか?
取材などで実は2度ほどあります。法廷って、ちょっと舞台装置っぽく感じるんですよね。裁判官は正面を向いているし、それを傍聴席から見ている構図もどこかステージっぽい。なので、今作では客席を傍聴席に見立てた構図になっています。そもそも法廷は、本来はちゃんとしていないといけない場所であり、人前で言われたくないこと、内緒にしておきたいことまで全てつまびらかにされてしまう。なおかつ、判事や書記官が楽器を演奏し、原告とかが歌ったりしたらおもしろいなと思いまして。
演歌を歌う松さんも必見です。松さん演じる演歌歌手の代表曲のタイトルをそのまま芝居の題名にしました。裸足で愛する人の裁判を見にきた女という設定です。最終的に「タイトル関係ねぇじゃん!」ってなっていたらすみません(笑)。

――今回は阿部サダヲさんと松たか子さんが夫婦役となり、離婚裁判を繰り広げます。「親バカ」がテーマですが、ご自身の父親視点も生かされていますか?
演歌歌手とミュージカル俳優の夫婦が、自分たちの息子だから絶対に歌が上手いに違いないと過剰に期待し、子供に音楽の英才教育を受けさせるのですが、全然歌ってくれない、才能が開花しないとイライラします。それでも息子の可能性を信じているふたりは親権をめぐって法廷闘争を繰り広げるのですが、息子のほうは、「2大スターの子だから天才だ」と言われ続けてきたプレッシャーで何もできなくなっている、というストーリーです。
僕自身、奥さんと子供のことを話していると、つい感情的になることがあるんですよ。なぜだろうと思うけれど、やっぱり我が子のことになると冷静でいられなくなるんでしょうね。この人は絶対に親バカにはならないと思っていた人が親バカになっているのを見ると親近感を覚えます。つまりは、僕も親バカなんでしょうね。
でもうちの娘、僕が父親でイヤなことも多いんじゃないかなと思うんです。娘の同級生が街で僕を見かけると、「今、お父さんいたよ」って娘にLINEしてくるらしいんですよ。ただ、歩いていただけなのに(笑)。そういうのって面倒くさいんじゃないかなと思うんですよね……。
つらいことは忘れられる。終わると楽しかったことしか覚えていないんです。
――「大パルコ人」シリーズは、ご自身にとってどんな作品でしょうか。
圧倒的にしんどいです! 他の仕事よりも。歌もあるし、台本と同時進行で歌詞も書かないといけない、笑いの要素も入れないといけない、演奏もしなきゃいけない、やることがとにかく多い上に、どの要素も自分にとって理想というか、正解がハッキリしているので、そこに到達しないと、なかなか先に進めない。それなのに早く台本を書き上げなきゃいけない。
しかもこのシリーズ、実は同じ世界線で作っていて、これまでの4作もそれなりにつながっているんですよ。あと、公演する劇場のある街を舞台にしたり、年代も2022、2033……と、西暦の下二桁をゾロ目にしていたりとか、自分で勝手に決めたルールに縛られて、回を追うごとに大変になっているんですよね。もう今回、年号のゾロ目はやめました(笑)。
でも、本番は本当に楽しいです。毎回、終わらなければいいのになと思うくらい。そして、毎回これが最後だと思ってやり切っています。毎回ベストのキャスティングが叶っているし、そうなるように頑張って、常に出し切っているからこそ、毎回これが最後でいいやって思えるのかもしれません。
だけど公演が終わる頃には皆で「これで最後ってさびしいね」とか言い始め、数年経つと、やっぱり「またやろうよ」ってなるんです。終わると楽しかったことしか覚えていない。つらかったことって忘れられるんですよね。だから毎回、新鮮な気持ちで臨めるのかもしれません。

――今作は“ミュージカル”ですが、どんなふうに楽しんでもらいたいですか?
音楽は、いわゆる劇伴音楽を作る方ではなく、現役のバンドマンにお願いすると決めていて、2作目から怒髪天の上原子友康さんに入っていただいていますが、これも他では意外とやっていないことかなと思います。他では観られないものを観てもらえる、既視感なく楽しめる、ということが、大パルコ人を作る時の僕の基準になっているような気がします。
だから、思いきり盛り上がってほしい。盛り上がりすぎてもちょっとな、みたいなことを思ってしまうのも僕の面倒くさいところなんですけど。内容は全部伝わらなくてもいいです。むしろ、全部伝わらないくらいのほうが未来があるような気がする。そんなことを思いながら作っています。あ、でもちゃんと皆さんに楽しんでもらうために作っていますから!(笑)。
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
 
								 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											 
											