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スキンケアニュース
2024.9.27

「大丈夫なフリ」をしてしまう男性【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.13】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

悩みを相談するのが苦手

弱音を吐くのが苦手、というのは男性一般の特徴であるようです。つい、大丈夫なフリをしてしまう。困りごとがあっても、他人に相談できない。ひとりで抱え込んでしまう。これは、私も含めて多くの男性が陥りがちな傾向であるように思います。弱っている自分を見せるのって難しいんですよね。弱みを見せた結果「コイツ大したことないな」「頼りがいのない男だ」と思われたらどうしようと不安になり、強そうな自分を演じてしまう。また多くの男性は「誰かに悩みごとを話して、共感してもらい、気持ちを落ち着かせる」という経験をあまりしないまま大人になるので、どんな場合でも大丈夫なフリをするようになります。たとえば私の知人男性は、出勤途中にアクシデントで骨折してしまったのですが、そのまま出社し、午前中いっぱい働いたと言っていました。お昼に痛みの限界が来てギブアップしたのですが、繁忙期で人手が足りず、「骨が折れちゃいました」と上司に言い出しにくかったそうです。根性があるのか勇気が足りないのか、よくわからない人です。みなさんは、骨が折れたら早めに周囲へ伝えてくださいね。

さて、なぜ今回のテーマが「大丈夫なフリをする男性」なのかというと、最近映画館で見た『ヒットマン』(日本では913日公開)という作品に、まさにそのようなタイプの人物が登場していたからです。主人公のゲイリー(グレン・パウエル)は、大学で心理学を教える先生。ひとり暮らしの彼は、性格は温厚で親切、普段はホンダシビックという地味な車に乗り、趣味は読書と猫の世話という、無害で平凡な(ゆえに魅力に欠ける)男性です。彼はとあるきっかけで、警察のおとり捜査に協力するため、犯罪者のふりをして容疑者に近づく仕事を始めます。マジメだけが取り柄のゲイリーでしたが、実際におとり捜査を始めると意外にうまく相手をだますことができ、容疑者を逮捕に結びつけていきます。そんな捜査の途中で知り合った女性マディソン(アドリア・アルホナ)は、犯罪者のフリをするゲイリーの危険な香りに惹かれます。やがて恋愛関係に発展したふたり。マディソンは、ゲイリーは平気で犯罪にも手を染めるワルだと思い込んでおり、そんなやんちゃな男の破天荒さに恋しているのです。さて、主人公はどうにも引っ込みがつかなくなってしまいました。自分を偽装して、相手と関係を持ってしまったからです。

悲しき仮面人生

魅力的な恋人を失いたくないあまり、主人公は自分を偽り続けます。本当は法律を破ったことなど一度もない、猫と勉強が大好きなマジメ人間である真の自分を隠さなくてはならないと感じているのです。本当の姿を知られたら、マディソンは一気に冷めて、自分を捨ててしまうでしょう。男性にとって「マジメ」や「善良さ」はなぜか、恥ずかしいことなのです(実にふしぎですね)。こうして主人公は、恋人と会うたびに冷酷な犯罪者のフリをし続けるのですが、この「フリをする」というプレッシャーが実に男性的だと感じました。求められる男性像を演じなければ、相手に見捨てられてしまいそうな気がする。だからこそ、どれだけ違和感があっても「男らしい」自分をキャラクターのように演じ続けてしまうのです。ここで、本当の自分は無害で善良な男性だと告白するのは、男性にとって耐えがたい屈辱です。そういえば、YouTubeのモテ指南で知られる男性インフルエンサーは「人生の成功者になれるかどうかは、どれだけ嘘の仮面をかぶれるかで決まる」と豪語していました。ああ、悲しき仮面人生。どれほど苦しくても、別人のフリを続けなくてはなりません。こうしたモチーフは、『フル・モンティ』(1997)や『トウキョウソナタ』(2008)といった映画でも繰りかえされます。このふたつの映画に登場する男性は、共に会社をリストラされるのですが、家族に「仕事をクビになった」と言い出せず、朝になるとスーツを着て出勤するフリをするのです。もちろん、家を出たところで行く場所などありません。

会社をクビになったのに、まだ仕事があるフリをして出かけていく男性。たしかに虚しいのですが、私はこうした場面を見ながら、彼らの気持ちがわかると思いました。無職の自分にはなんの価値もないし、存在することが許されないような気がします。リストラされたと正直に伝えて失望されるのが怖くて、朝になるとスーツを着て家を出る。同じ状況に置かれれば、自分も同じことをしてしまうかもしれないと思ったのを覚えています。自分に求められる役割、特に「男らしさ」にまつわる期待に応えられない状況を、男性は嫌がります。こうしたプレッシャーから自由になり、困ったときに「実は困っていて……」と周囲にすぐ相談できるようになれれば、男性はよりラクに生きられるようになるのではないかと思うのです。男性は、どうすればフリがやめられるのか。もちろん女性にも、なんらかのフリをしなくてはならない状況はありますが、同時に多くの女性には、周囲に相談して問題をひとりで抱え込まないよう工夫する柔軟性があります。一方、男性はなにしろ相談が苦手なのです。そして気がつけば、強くて悩みなどない男のフリをしてしまっているのです。

「大丈夫なフリ」を止めてみよう

私自身、美容に親しむようになってから、「大丈夫なフリ」を止められるようになってきました。やっぱりしんどいときは、ちゃんと口に出して「しんどい」と言った方がいいですよね。「男かくあるべし」という思い込みが、美容を習慣にすることで修正されていく気がします。美容を習慣にすると、「男らしさ」という価値の意味のなさに気づいたり、もっと自分を大事にしようという気持ちがわいてきます。というのも「男らしさ」には、あえて自分を粗末に扱うような部分が少なからずあるためです。なにかのフリをして辛くなるより、素直に周囲に相談をして、自分を隠さずに生きる方がずっとラクそうです。でも、つい柄にもない自分を演じてしまったりするんですよね。そんなきゅうくつな自分を変えるためにも、まずはかんたんなスキンケアから始めてみてほしいと思っている私です。値段も、安価な製品でまったく問題ありません。

さて、今月のおすすめスキンケア製品ですが、オルビスが9月中旬から、これまでになかったプチプラ価格帯のアイテムを販売し始めました。試しに使ってみたところ、よかったのでご紹介したいと思います。「ショットプラス」というシリーズで、「クリアブーストウォッシュ」(洗顔料)「ナノNCローション」(化粧水)そして「ナノNCミルク」(乳液)の3点が出ています。どれも1000円前後で買える製品なのですが、しっかりと保湿ができる高品質が気に入っています。肌がもちっと柔らかくなるのが好印象。3点ともエイジングケアの美容成分が入ったシリーズで、ハリが出たり、毛穴の目立ちをおさえたりといった効果も期待できそうです。無香料なのでクセがなく、使いやすいアイテムでもあります。個人的には、乳液のしっとりとした感触が好きでした。そこまで高価な製品でなくとも、お肌をいたわる作業ができるので、気になる方は試してみてほしいです。そして、苦しいときには「苦しい」、困ったときには「助けて」と言える男性になれるよう、気持ちを切り替えていきましょう。美容はきっと、そんな変化を手助けしてくれます。

 

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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