スキンケアニュース
2024.3.13

考えてそうで考えてない、でも少し考えてる「男性と毛の問題」【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.7】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

男性にとって毛とはなにか

世の男性は普段、どのくらい毛について考えているのでしょうか。多くの女性は毛について深く考えていると思いますし、電車に乗ったときに感じる脱毛広告の多さは、「主体的に考えている」というより「考えさせられている」がニュアンスとしては近いような気がするのですが、毛の問題における男女差とはいかなるものなのでしょうか。私自身について言えば、かつて恋人がいたとき、彼女は腕にも足にもムダ毛がなく、つねにつるんとしていましたが、どのようにしてそのキレイな状態を保っているのかについて想像したり、相手から話を聞いたりしたことはありませんでした。無知な私は、女性はもともと毛がほとんど生えないものだと思っていました。そんな自分を思い出すと、少し恥ずかしい気持ちになります。彼女は私を失望させないために、こまめにケアをしていたのかもしれません。

もっとも身近な男性の毛、ヒゲ

男性と毛の関係性でいえば、まずヒゲがあります。基本的には毎日剃らなくてはならないし、肌への負担も大きい。女性にはない「毛の問題」です。毎日、少なくとも5分程度は時間を割かなくてはならないルーティン作業でもあります。だからこそ男性はみな、ヒゲについて自分なりのケアの方法を確立しているのだろうと女性は想像するかもしれませんが、実際はそうではありません。思いのほか多くの男性が、シェービングクリームもつけず、直接に肌にカミソリを当てて雑に剃り、ひりついた肌になんのケアもしない、という荒っぽい方法を取り続けています。電気カミソリを使う男性も多いですが、やはりケアをしない方が目立ちます。これほど毎日していることなのに、ケアをする感覚があまりない。身近なところでは私の弟もこのパターンで、当然ながら肌は荒れて赤くなり、見るからに痛々しい状態でした。私が「肌が痛くないの?」と質問しても、「いや、ヒゲ剃りってそんなもんでしょ」と答えていたのが印象的です。シェービングクリームで肌へのダメージが抑えられることも、アフターシェーブローションや乳液で肌荒れや痛みを緩和できることも知らない男性は、驚くほど多い。

私は、たまたま手に取った村上春樹の小説に書かれていた「正しいヒゲ剃りの方法」を読んで、お湯をつかってヒゲを柔らかくする方法や、シェービングクリームを使って肌を保護する方法を学ぶことができましたが(村上春樹の本には、スパゲッティの茹で方やウィスキーの水割りの作り方などが学べて役にたつ一面があります)、そもそも多くの男性は「肌を傷つけないヒゲ剃りの方法」を学ぶ場所や機会がないのです。雑誌を読んでも、そのようなことはあまり書かれていませんでした。十代中盤から始まる毎日のヒゲ剃りについて、なんのケアや対策も講じないまま、何十年も肌を傷つけている男性が多いのは、ちょっと悲しいですね。私は周囲の男性に「素肌にいきなりカミソリを当てず、まずはお湯でヒゲをあたためて」「洗顔料でもいいのでなにか泡をつけて」「とにかく乳液だけでも使って」とお願いしていますが、なかなか通じない。グリチルリチン酸ジカリウムはヒゲ剃り後の肌を守ってくれるステキな成分だよと布教したい気持ちです。

まゆ毛、まつ毛、体毛

では、まゆ毛はどうでしょうか。これは世代によって、また個人の美容に対する意識によって差があると思います。昭和生まれの世代には「男のくせにまゆ毛をいじるような軟弱野郎は仲間じゃない」という妙な反発がありました。そうした世代に属する私は、友だち同士でまゆ毛の処理や、どうすればきれいなまゆ毛になるかを語り合う機会をまったく持てませんでした。唯一知り得る情報源は、ドラッグストアに売っている「男性用まゆ毛整えセット」のみ。その小ぶりなセットには、まゆ毛用のハサミやクシと共に「まゆ毛の整え方マニュアル」が封入されており、買ったことのある男性も多いと思います。昭和生まれの世代にとっては、その小さな冊子だけが、まゆ毛を整えるためのヒントがつまった情報源でした。まゆ毛で顔の印象が大きく変化するという事実を知らない男性も多い。若い世代になれば、そうした抵抗も少なくなってきて、まゆ毛を手入れするのは当然になっていきますが、ここにも世代間の断絶があります。先日、百歳になられた元首相の村山富市氏、彼のトレードマークでもあるボーボーまゆ毛を見ると、彼をまゆ毛サロンへ連れていきたい衝動に駆られますが、少なくとも中年男性の多くのまゆ毛に対する意識は、村山元首相とあまり変わらないレベルかもしれません。

次にまつ毛ですが、まつ毛について、9割以上の男性はまったくなにも考えていません。人生で一度も考えたことがない、といってもおかしくはないと思います。男性にとってもっとも縁遠い毛、それがまつ毛です。そのため、女性がマツエクについて話す様子は、ビーバーから「川にダムを作るって結構たいへんだよ」と聞かされるくらいにリアリティがありません。まつ毛は、なんだか知らないけど目の上下に生えてる毛でしかなく、それをどうしようとか、うまい具合に変化させようなどと考えることもありません。ふしぎなものです。しかし、体毛については少し異なります。体毛は個々で濃い薄いの差がかなり激しいためです。銭湯やサウナへ行くとよくわかりますが、体毛の量には人によってずいぶん異なり、背中までうずを巻いて黒々と体毛が生えているような方もいます。体毛が濃いことを気にして処理をする男性は、少なからずいるようです。

センシティブな毛の問題もあります

個人的にも、友人から「胸毛が濃くて恥ずかしい」という悩みを聞いたことがあります。体毛については、思いのほかセンシティブな領域であり、人知れず地道な処理をしている男性は少なくないと予想されます。冗談にして笑っていいものではなさそうですね。また、センシティブということでいえば、頭髪ほどセンシティブなものはありません。差し障りがあるので具体的には書きませんが、若き男性にとって「将来の頭髪問題」はロシアンルーレットのようなもので、自分にそのターンが回ってこないことを、日々神様へ祈っています。とはいえ、コンディショナーで髪質をどうにかしようとか、良質なシャンプーを使おうといった考えに至ることはあまりないのですが、男性はみずからの頭髪の無事を(幼少時から)懸命に祈り続けている、ということは言えると思います。 

さて、ヒゲ剃りについて必要なアイテムを挙げてみますと、まずはなんといってもシェービングクリームです。シックの「薬用シェーブガード」は、どのドラッグストアでも確実に手に入る上に、肌をしっかり保護する泡のガード力がありがたい定番アイテム。とにかく使い勝手がいい。カミソリでヒゲを剃るなら、必ずこのクリームを使ってほしいですね。泡のもっちりとした濃さは、ヒゲ剃り専用ならではです。THREEの「バランシングステム モイスチャライザー」は、ヒゲ剃り後の肌のケアにぴったり。肌あれを防ぐ植物エキス(オウバクエキス)で、ひりつきを解消しつつ、しっとりとした状態を作ってくれます。ヒゲ剃り後の肌に効果があるのは、化粧水より圧倒的に乳液です。化粧水はお好みのものでよいですが、乳液は肌あれ防止効果のある製品を選んで使うのがオススメですよ。

こうして男性と毛の関係性について考えてみると、「考えてそうで考えてない、少し考えてる」という、食べるラー油みたいな状態であることがわかります。身体の問題を軽視してしまうのは、男性ならではの現象かもしれません。しかし、若い世代ではヒゲ脱毛なども広がっており、意識が変わってきているのだなと感じます。ヒゲ剃り、たいへんですからね。なにより、男性同士で、まゆ毛やヒゲについてもっと自然に語り合えるようになれればと私は思います。私の世代はなにしろ語りにくかった。そうした状況が変化してきているのが嬉しいのです。

 

伊藤 聡(いとう・そう)
会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

イラスト/green K

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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