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2025.1.14

古い器に新たな自信と美をもたらす「金継ぎ」という美学|美的GRAND

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「古民家」という暮らし方から時を重ねたものだけに宿る価値を知る

昨今世界中で注目を集め、その古いものを大切にするという考え方含めて賞賛されている陶器の修復技術「金継ぎ」。ここにも「経年美化」という考え方のヒントが隠されています。

思い入れのある大切な器を諦めず使い続けていける

東京の恵比寿と浅草で「金継ぎ」の教室や作品の販売など、金継ぎにまつわるさまざまなサービスを展開している企業・つぐつぐ。代表の俣野由季さんは現在40歳と、まさにグラン世代。元々は製薬会社に勤め、ドイツに留学し医学部を志したこともありましたが、その後の紆余曲折の中で金継ぎに出逢い、この魅力を多くの人に広めたいという思いで起業します。「留学の経験で、外から見る日本の魅力を知りました。帰国して仕事をする傍ら大学のMBA取得コースに進学したのですが、その講義で海外の教授から、金継ぎの素晴らしさを教えられたのです。不完全な部分を隠すのではなく、あえて生かして強みにする美しさが、自分の人生と照らし合わせて心に響きました。また、大切なものを長く使える喜びを多くの人に広めたいと思い、この世界に飛び込みました」

全くの異業種から人生を賭ける転換を決意させた、金継ぎの魅力とは?
「古いものを大切にする美学や、仕上がりお話を伺った人の個性豊かな美しさなど、たくさんありますが…私が考える大きな魅力は、思い入れがある大切な品物を諦めなくていい、お気に入りとして使い続けていけるというところです。手間と費用をかけたことでさらなる愛着が生まれ、見た目も新たに芸術的な美しさが宿ります」

さらにもうひとつ、印象的だったのは「修復した器を、自信をもって使えるところも魅力」という俣野さんの言葉。「個人的な話になりますが、以前、ドイツからもち帰ってきたお気に入りの器を割ってしまったんです。修復方法を調べる中で、金継ぎに興味をもちました。金継ぎに使う材料は、漆(うるし)や砥粉(とのこ)(注:砥石や焼いた黄土の粉末)、弁柄粉(べんがらこ)(注:酸化鉄を原料にした顔料)、金粉など、すべて天然のもの。漆は縄文時代から使われてきた天然の接着剤です。漆は約100年かけて少しずつ硬化するそうで、時が経つ程に丈夫になるのです。ここが合成の接着剤と異なる、天然の力のすごさです。もちろん修復には手間と時間がかかりますが、美しく、さらに実用性も高いという点で、金継ぎした器は自信をもって使うことができます」

大切に使ってきたものに愛着をもつという心。できた傷、不完全さを魅力に変える逆転の発想。丁寧に時間をかけてケアをすることで新たな美しさが宿るという希望…。金継ぎにまつわるストーリーには、肌のエイジングケアに置き換えられる学びが多くあります。金継ぎのように「経年美化」する大人肌を育てていくことは、自分を大切にする魅力的な生き方でもあります。

時間が再生の糧となる金継ぎの工程

金継ぎの工程は大きく分けて5つ。上、左から、割れた器を、漆と小麦粉、水を混ぜた“麦漆”で接着。欠けた部分を漆のパテで埋める。さらに小さな穴を埋め、黒い漆で中塗り。最後に赤い漆を薄く塗り、真綿で金粉を蒔いて完成。

( / )

株式会社つぐつぐ 代表取締役 

俣野由季さん

『美的GRAND』2025冬号掲載 
撮影/嶋崎征弘 構成/大塚真里

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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