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2017.3.22

【齋藤 薫さん連載 vol.60】愛されるためには、優しい女になろう

自分に落ち度がなくても、相手がなんとなく苦手意識を持っているなぁ、と感じたことはありませんか? 人間関係を円滑にするためには、相手のことをよく知り、気遣う思いやりや優しさが必要なのです。優しくされてイヤな人はいないし、優しい人のそばにいると、人は自然と優しくなれるもの。そんな、周りを優しく包みこむような女性が愛されるのではないでしょうか。

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誰かに苦手意識を持たれない
ための処世術は、女優に学ぶ

「あの人、嫌い」と思っている人のことは、おそらくみんなが嫌い。人の気持ちが読めない、ズケズケものを言う、いつもネガティブである……などなど、そこには明快な理由があるから、当然のこと。でも自分が人からどう思われているかについて、人間はけっこう鈍感だ。気にしているのに見えていない。全員に嫌われているケースはもちろん、もっと微妙な〝好き嫌い〟についても、皆ある種の不安を抱えている。つまり誰かに〝ちょっとだけ苦手〟と思われてるかもという曖昧な不安は、誰にでもあるものなのだ。

誰かに、ちょっとだけ苦手と思われる……こればかりは、〝ちゃんといい人〟にだって起こりうる。例えば、自分にないものをたくさん持っている人への小さな嫉妬は、〝苦手〟意識につながり、こちらに落ち度がなくても、一方的に苦手と思われているケースは大いにあるのだ。

これはどうにも避けようがないこと、とも言えるけど、たった1人にでも、疎まれているのは心地よくない。少なくともその理由だけは知っておきたいと思うはず。あらゆる人間関係を円滑にするためにも、自分がそういう意味での苦手意識を持たれがちであると知っておいて損は無いのだ。例えばそういう空気を察した時、運動神経のように相手を安心させるような対応ができたりする、そういう大人の女性になりたいとは思わないか。ある女優さんが言った。だからサバサバしてるように見せるのよと。実際〝男っぽい〟とされる女優は少なくないが、それは女優にとっての1つの〝処世術〟なのかもしれない。もちろん本来がサバサバしていないとできないような仕事。でもそれ以上に、サバサバしたふりをしているケースも少なくないのだ。周囲が勝手に緊張してしまう立場だけに、そういう緊張をほぐしてあげるために、サバサバした男っぽい印象を反射神経のように作っている。冷たく見えないよう。気取って見えないよう。気難しく見えないよう。そして嫉妬されないよう。「大丈夫。私は細かいことは気にしない」何か失礼があってはいけないと、緊張している人に対して無言でそういう気配を作って安心させてあげる、その優しさが女優のサバサバにはあるのではないかと思う。

ただ〝サバサバしている〟のと〝ズケズケものを言う〟のとは全く違う。ここで言うサバサバとは、周囲に気を遣わせないよう、細かいことにこだわらない〝さっぱりした女〟を装える配慮のこと。〝精神的にガサツなために人を傷つけても平気な人〟とは全く逆のメンタリティーなわけで、そこはきっぱり分けて、混同させない。ともかくサバサバを、自分が嫌われないためとは言え、他者のために使える女はかっこいいと思うの ちなみに、誤解を受けないため、苦手意識を持たれないため、もう1つの女優の処世術には、〝天然〟ふうを装うというやり方もあるけれど、このパターンで笑いを取れなければ失敗。女優ですら、天然を装うのは相当にリスクの高いこと。結局は、天然だろうがサバサバだろうが、相手の緊張をほぐすために使わなければ失敗すると言うことなのだ。

愛される女になるために、楽な道は無い。もちろん自分らしくいるのが1番だけれど、相手を心地よくさせる処世術は、あなたが女優でなくても何らか身に付けておくこと。嫌われないため、相手の心を開かせるため。そして自分のため。

〝嫌われる勇気〟より、
世のため、人のため、
やっぱり〝いい人になる〟ススメ

世間一般の〝好きな女優、嫌いな女優〟とはまた別に、実際にその人と仕事をしたことがある業界内での評判は、とても興味深い。いつも心根の美しい役をやる人が実はとても怖かったりする人もいる一方、誰に言わせても素晴らしい心根の持ち主とされる人もある数いる。

そういう意味で、圧倒的な評価を得ているのが菅野美穂さん。見事にスタッフと溶け込み、全く女優然としていない。しかも、ただあっけらかんと親しみやすいだけでなく、ちゃんと周りに気を使い、でも気を使っていることを悟られない、そんな気遣いのできる女性であるとか。この人と仕事をして、嫌な印象を持つ人は1人もいないはずと、誰もが口を揃えるのだ。つまり、ただ評価されているだけじゃない、相手を完全に味方につけている。単にいい人であるレベルを超えて、本当に心優しい人なのだと言う感想。これ、重要なポイントで、ある意味〝いい人〟は誰でもなれるが、〝心優しい人〟になるのはまた別の話。周りを緊張させない配慮としてのサバサバも天然も、人を安心させることはできるが、それ以上の支持にはつながらない。それが菅野美穂さんは彼女の内面の素晴らしさを、1人でも多くの人に伝えてあげたいと思わせる訳で。

人間、〝いい人のふり〟はいくらでもできる。それは決して悪いことではなく、みんなが努めて〝いい人のふり〟をすれば、もっと世の中は上手くいくわけで、表面的な付き合いにはぜひこの〝いい人のふり〟をしたいもの。最近話題のアドラー心理学を解いた『嫌われる勇気』は150万部を超え、TVドラマ化もされたけど、〝嫌われる勇気〟というフレーズだけに影響されて、嫌われたっていいんだと、嫌われても自分を通せばいいんだと、そう考える人が結構増えているのだとか。でも本来は世渡りを上手く進めるためのこの心理学を極めていけば、時と場合で自然にいい人を演じたりできるはず。それは嫌われないためではなく、人間関係を円滑にするため。相手に迷惑をかけないために、基本的にいい人ができるというのが、人間の能力だから。それこそが〝大人の知恵〟と言うものであり、嫌われても我を通すのってやっぱり幼くないか?

聖人君子なんていない。そんな事はみんな百も承知、それでもいい人と悪い人がいるのは知性の差なのだ。だから、浅い付き合いほど、いい人でいればいい。お互いの幸せのために。でもさらに本当意味で〝心底いい人〟は、ただの平和だけでなく、人の気持ちを動かせる。大なり小なり人を感動させた結果なのだ。菅野さんはそういう意味で、ひとつ上。

少なくとも女優のように、綺麗な上に才能があるから〝ワガママでも仕方がない〟というエクスキューズにもともと守られている人が、とんでもなくいい人だと、人を感動させてしまう。それどころか他人の心を浄化し、自分も優しくならなきゃなどと思わせてしまうのだ。ある意味、女神? 美しい上に、才能がある上に、そこまでいい人は、大げさではなく、何となくでも世の中を良くすることができるのだ。何だかそれってすごいこと。「嫌われる勇気」も、最終的に〝人の役に立つこと〟が大事と言っているのだから。

優しさは人を優しくする。優しい人のそばにいると、人は優しくなる。いじめられて凶暴になった犬も、優しい飼い主のもとで飼われると、数ヶ月で優しい犬になる。そういうこと。

嫌われる勇気より、世の中のために〝いい人〟をやる知性を。そしてどうせなら、周りを優しくするほど優しい女になろう。それも美容。

美容ジャーナリスト/エッセイスト
齋藤薫
女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新刊『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)他、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)、『The コンプレッ クス 幸せもキレイも欲しい21人の女』(中公文庫)など多数。

美的4月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環 デザイン/最上真千子

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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