「いいアイディアを生むコツって？」｜石井美保の美になる話。vol. 24

読むだけで、昨日よりちょっとキレイになれる。石井美保さんの注目の連載、第24弾です。

受け手が「いいかも」と想像できることは受け入れられる

自己満足の凝ったアイディアを押しつけるよりも、受け取る側がその良さを想像できてこそ、いいアイディアであり、それはヒットにつながります

ワンピース￥85,800（フィルム〈コルコバード〉）　その他／スタイリスト私物

何かを生み出したり、効率良く物事を進めたりするために、仕事はもちろん家庭でもアイディアを提案するという場面があると思います。その際、私が大切にしていることは、“受け手側にとってどうか？”ということ。「私はこれが好き」「これがすごく良い」と思えることはもちろんですが、私の主観以上に、受け手であるユーザーの方の生活にぽんっと入り込めるかどうかがいちばん重要。世の中には本当にいろいろな方がいて、趣味嗜好やライフスタイルも多種多様です。そんな中でもより多くの人が「これは良いかも」と容易に想像できることが、成功のカギだと思っています。

例えば、インフルエンサーが「これすごくいいから！」と自分の価値観で何かをおすすめしても、案外万人には刺さらないもの。影響力がある人が言ったからといって「◯◯さんみたいな人にはいいかもしれないけれど、私には関係ない」「自分に役立つか今ひとつ想像できない」などと敬遠されて、ただの独りよがりになりがちです。

だから本当にいいアイディアというのは、あらゆるユーザーの方がもつ受け皿の片すみに「これなら加えてもいいかも」と思えるような気軽さと、ベネフィットが想像しやすい表現や見た目をしているもの。

いいと思ってやった失敗談をひとつお話しましょう。ひとりでマンションの1室でサロンを始めた頃、集客のためにチラシをポスティングしたんです。ワードを白黒印刷したもので手作り感満載です。でもこれ、意外にもすごい効果があって、そのときのお客様が今も通ってくださる程、大成功を収めました。さて、サロンが拡大しスタッフも増えたところで、もう一度ポスティングにトライしました。今度は「結婚式の招待状か！？」という程凝った透かし模様が入ったかわいい用紙を使い、業者さんに頼んでお金をかけて行ったのですが、なんと新規のお客さんはひとりも来ませんでした（笑）。こだわって手をかけて、いいに違いないと思ったものが、必ずしも万人に刺さるわけではないというのが身に染みてわかりましたね。

私の書籍もそうで、何冊も出させていただいていますが、せっかくだからとあれもこれもと盛り込んだ凝ったものより、シンプルに基本をわかりやすく説明したものの方が多くの方に読んでいただけました。自分の考えやアイディアを多くの人に伝えたい、世に広めたいと思った場合、自分の能力やセンスをひけらかすのではなく、どれだけの人が気後れせずに受け入れてくれるかという目線を忘れてはいけないという教訓を得ました。

ジャンルにこだわらずヒットメーカーをチェック

私がアイディアを生み出すために、日頃からやっていること。美容に限らず全く興味のないテーマでも、インスタグラムやYouTubeでバズっているものはひと通りチェックしています。似た内容の投稿があふれているのに、どうしてその投稿がウケているのか、どんな人がどんなやり方で作っているのか？そんな目線で見ると、世間のニーズやヒットの傾向が見えてきます。

特にインスタグラムは、以前は「いいね」をもらえるような華やかで美しいものを見せるイメージがありましたが、最近は、本当に支持されているのは、お掃除だとか洗剤だとか暮らしに寄り添う内容や、ギャップの大きいメイクのビフォーアフター動画で、コンプレックスや悩みにフィットする内容がバズっていることが多いんですよね。幅広くヒットしているものをチェックすることで、具体的なアイディアを得るというよりは、じゃあ私は何をするべきか／しないべきかというのが見極められるようになりました。自分にできることが見えてくると、おのずとアイディアは生まれてきます。

既にあるものをなぞるよりまだこの世にないものを

私がこれまで手掛けてきたコスメには、摩擦レスの押し洗いの基になった泡クレンジングの「パーフェクショネール」やサプリメントの「ルミエラブ」「ルミエージュ」などがありますが、開発する際に考えていたのは“この世にないものを作り出す”ということ。「こうだったらすごく便利／素敵なのに」と多くの人が感じているのに、今現在どこにもないものを作り続けてきたからこそ、多くの方に支持していただいていると思いますし、これからもそのポリシーは貫いて、「まだこの世にないもの」で、突飛で独善的なものよりも「受け手の想像力の範囲内に収まるもの」を生み出していけたらなと思います。