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2008.11.20

西の国から美的通信#18 〜波佐見焼(1)〜 「くらわんか茶碗」の発祥の地を訪ねる

A:波佐見焼の窯元が集まる中尾山の一角。陶郷らしく、橋の縁には磁器がほどこされています。
B:白磁に紺色の絵柄がおしゃれ! 塀にも、こんなあしらいが見られます。
C:中尾山をそぞろ歩きしていると、生地を乾燥させているこんな光景をよく目にします。
D:友人がプロデュースしている「tamayo」ブランド。詳しくは下記協立陶器のHPにて!
E:ちょっとした料理でもこんなに映えるのが白磁の魅力。ある日の「うちランチ」(私の手料理)でした! 手前からジェノベーゼ、豆いろいろトマトスープ、野菜サラダ。

唐突ですが、みなさん「波佐見焼」をご存じでしょうか? シンプルな白磁の美しい食器です。ちなみに、波佐見と書いて、「はさみ」と読みます。長崎県の中央北部に位置していて、長崎県内では唯一、海がない町。全国区に名を馳せる器の町・佐賀県の有田町とも隣接しており、歴史を紐解くと、江戸時代には積出港から「伊万里焼」、明治以降は積出駅名から「有田焼」と称されていたため、窯業は400年もの歴史があるにもかかわらず、なかなか全国的に知れ渡ることはありませんでした。

かくいう私も、長年、九州に住んでおきながら、正確に波佐見焼の存在を知ったのはほんの数年前。でも、知らなかっただけで、白山陶器の「ロックカップ」や「ファンシーカップ」は、東京や長崎の美術館の売店や地元の雑貨店などで何度も目にしていたし、いくつものグッド・デザイン賞を受賞している陶磁器デザイナー故・森正洋氏が生み出した食器は、某有名雑貨ショップでも定番になっているほど。知らず知らずのうちに愛用しているものもあったのです。

そんな無知極まりない私に、影響を与えてくれたのはある友人の存在でした。その友人とは、有田が誇る人間国宝・十四代酒井田柿右衛門さんの血筋にあたる方であり、親戚である波佐見焼の後継者として、現在がんばっている人なのであります(ただいま、子育てのため休業中ではありますが!)。最初はただ単に、波佐見焼のテイストが好き! と思い、いろいろ買い集めていたのですが(おかげでうちの食器棚の9割が波佐見焼)、彼女のなにげなく発したひと言が妙に私の好奇心をくすぐったのです。それは昨年の陶器市を巡っているときのこと。その昔、食器を使い捨てにしていた時代があったと言うのです。

「なんだ? それ?」。

ぶっちゃけ衝撃的でした。せっかく作ったものを、なぜ使い捨てにするの? というのも、有田や鍋島の歴史を考えても、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際、無理やり連行された朝鮮李朝の陶工のことを思うと、とても切なくて。毎回、大川内山に訪れるたびに、陶工のお墓を目にしては心がキューンと痛んでいたからです。

調べてみると、この使い捨てというのは「くらわんか」というものでした。この言葉を聞いても、一体なんのことだか想像もできなかったのですが、どうやら話は江戸時代にまで遡るようです。当時、大坂(現・大阪)と京都の重要な交通手段として、三十石船(さんじゅっこくぶね)と呼ばれる船が淀川を行き来していたそうです。その船に小舟で近づいて、「あん餅くらわんか、酒くらわんか」とかけ声をかけながら、酒や食べ物を器に盛って売る商いが繁盛していたようで、この時に使われていた器が「くらわんか茶碗」を呼ばれていたものでした。この茶碗、飲み食べした後は、淀川へ投げ捨てられていたらしく、現に数十年前ほどに淀川の川べりからいくつもの茶碗や皿がたくさん採取されたというから、真偽は定かでないものの信憑性があるように思えます。

その「くらわんか」がなぜ波佐見とつながるのかといえば、江戸時代の元禄から幕末まで波佐見では安い日用食器を大量に生産し続けました。生産量はおそらく日本一。先に説明したように使ったあと捨てられるような安い日用食器を総称して「くらわんか手」と呼ぶようになっていました。言ってみれば、それだけ多くの人々に愛されていた食器であり、まさに江戸時代のベストセラー商品だったのです。普段、私たちがなにげなく使っている波佐見焼には、こういった歴史があったことを知れば、なるほど! 知らずに使っていても不思議ではないと思えたりするのでした。

今回は思いのほか、歴史を語ってしまいましたが、次回は窯元を訪ねて実際に伺った陶芸家さんのお話や、現在、波佐見焼が取り組んでいる異業種とのコラボレーションの内容、さらには波佐見で見つけた素敵な雑貨屋さんなどをご紹介します。
《次号へ続く》

<取材協力>
協立陶器 http://www.kyoritsu.cc/index.html

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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