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2013.12.12

大高博幸の美的.com通信(193)  『鑑定士と顔のない依頼人』『鉄くず拾いの物語』 試写室便り Vol.58

(c)2012 Paco Cinematografica srl.
(c)2012 Paco Cinematografica srl.

天才オークション鑑定士に舞いこんだ、ある屋敷の鑑定依頼。
そこには隠し部屋から姿を現さない依頼人と、
世紀の発見となる美術品が待っていた――。
鑑定士と顔のない依頼人』 (イタリア映画。131分)
12.13 ロードショー。kanteishi.gaga.ne.jp

【STORY】  物語の始まりは、ある鑑定依頼。引き受けたのは、天才鑑定士にして一流オークショニアの、ヴァージル・オールドマン。それは、資産家の両親が遺した絵画や家具を査定してほしいという、ごく ありふれた依頼のはずだった。ところが、依頼人の女性は決して姿を現さない。
やがて、彼女が屋敷の壁の向こうの隠し部屋にいることを突き止め、我慢できずに彼女の姿を覗き見たヴァージルは、その美しい姿に一瞬で心を奪われ、どうしようもなく惹かれていく。さらに、屋敷の中に、歴史的発見とも言える とんでもなく価値のある美術品の一部を見つけ――。
果たして奇妙な鑑定依頼の本当の目的とは? ヴァージルの鑑定眼は本物か、節穴か? 謎は まだ、入口に過ぎなかった――。 (プレス資料より)

『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』『マレーナ』のジュゼッペ・トルナトーレ監督が、今回もエンニオ・モリコーネ(音楽)とタッグを組んだミステリー・ドラマ。
何が起こるのだろうかと、映画ファンなら胸が躍る展開。主演は、『英国王のスピーチ』で吃音矯正の先生役を好演したジェフリー・ラッシュ。助演者には、若手の中堅スター:ジム・スタージェス、名優:ドナルド・サザーランドが名を連ねていて、ドゥロウイング・パワー(観客動員力)は相当強い作品。
観客を巻き込み、鮮やかに騙して御覧に入れようという類のエンターテインメントで、ホラー的に怖い場面はありませんが、全観客が「エーッ!」と驚く、ある意味、非常に怖い結末が用意されています。
僕は観ている途中、かなり早い段階で、33%ほど“予想”がついたのですが、あとの67%は完全に騙されていました。“顔のない依頼人”の役に起用されたシルヴィア・ホークスは、目にミステリアスな雰囲気がありますが、アゴの線が強めの骨格は“精神的な脆さを少女時代から抱えてきた女性”という設定を、かなり邪魔しているように感じさせもします。そんな観る側の思い込みを、巧みに利用しているところがミソでしょう。
P.S. ひとりで観るよりも、誰かと一緒に…のほうが絶対に楽しめる作品です。

 

mgkjntqw世界中の映画祭で絶賛された、奇跡のヒューマンストーリー。
これは真実の物語――。
鉄くず拾いの物語』 (ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フランス、スロベニア合作映画。74分)
2014.1.11 ロードショー。www.bitters.co.jp/tetsukuzu/

【STORY】  ボスニア・ヘルツェゴヴィナに住むロマのナジフと その妻セナダは 二人の娘と一緒に暮らし、セナダは三人目を身ごもっていた。ナジフは拾った鉄くずを売り 一家の生計を支え、貧しいながらも穏やかで幸せな生活を営んでいる。
ある日 ナジフが長い労働から家に帰ると、セナダが激しい腹痛に苦しんでいた。翌日 ナジフは車を借り、一番近い病院へとセナダを連れて行く。流産し 5ヵ月の胎児は お腹の中で すでに死んでいると診断され、遠い街の病院で 今すぐに手術をしなければ セナダの命も危険な状態だと言われる。しかし保険証を持っていなかったため、彼らには支払うことのできない980マルク(500ユーロ)もの手術代を要求された。ナジフは「分割で払わせてくれ」と、必死に妻の手術を看護師や医師に お願いするも受け入れられず、その日は ただ家に戻るしかなかった。
ナジフはセナダの命を救うため、死にもの狂いで鉄くずを拾い、国の組織に助けを求めに街まで出かける。 (プレス資料より。後半省略)

コレは純正のドキュメンタリー・ドラマ。2011年、ナジフとセナダに起こった“出来事”を地元の新聞で読んで知ったダニス・タノヴィッチ監督が、「なんとしても映画にして、世間の人々に訴えなければ」と立ち上がり、自己資金で9日間で撮り上げたという作品です。
出演しているのは、“出来事”の実際の当事者であり、しかも演技経験など皆無のナジフとセナダ本人達で、まるで再現ドラマというより、リアルタイムに撮影された映像のように見えます。そして本作は、2013年度ベルリン国際映画祭(世界三大国際映画祭のひとつ)で上映され、なんと銀熊賞のダブル受賞(審査員グランプリと主演男優賞)に加え、エキュメニカル賞特別賞をも獲得、見事三冠に輝くという快挙を成し遂げました。

この映画、できれば このページの読者全員に観ていただきたいし、各自 何かを感じていただければ嬉しいので、僕としては何も言わずにおくほうがいいと思っています。たゞ、僕が感じたコトを簡単に述べるとすると、①ナジフ一家と近所の人々(特に精一杯の助力を惜しまないナジフの弟分的人物)が、昔から知っている大切な誰かのように見えてくるコト、②彼らとタノヴィッチ監督の間に信頼関係が存在していると分かるコト、③彼らに愛情と敬意を抱いている監督の気持ちが全篇を貫いているコト。さらに、一観客である自分自身の生活・暮らし方と、それに対する自分自身の感覚が、果たして今のままでいいのだろうかと、ふと考えさせられたコトです。

物語の結末を隠す必要はないはずなので記しますが、最終的にセナダは命拾いし、とにかく安堵したナジフは、右下のスティルの場面の後、雪が しんしんと降りしきる森へ、薪(たきぎ)を取りに出かけて行きます。そして、お供の飼い犬がリズムをとるかのように吠える声を、我々が遠くに聞くところで終ります。

最後に、本作の本質をついた映画評を四つ、読んでいただけたらと思います。

「手持ちカメラで粘り強く主人公の夫婦を追うタノヴィッチ監督は、どうしようもない貧しさを ありのままに描き出す。彼らは抗議の声を上げることなど考えにも及ばず、たゞ一日一日を生き延びて行く。冬のくすんだイメージが、社会が目まぐるしく変わっていく一方で 置き去りにされた彼らの生活を、まるで運命のように見せている。」 (スクリーン・デイリー紙)

「この映画には訴えるべきメッセージが詰まっている。まるで主人公の人生が 目の前で過ぎて行くのを見るかのようだ。だからこそ観客は、彼の苦境を自分のことのように感じられる。」 (インディワイアー紙)

「タノヴィッチは、映画の対象を敬意と威厳をもって扱っている。一家は貧しいが魅力的だ。そして主人公は、ひどく絶望的な状況に追い込まれても冷静で、何かしら解決策を考えている。この映画は まるで個人映画のようであり、こうした主題がタノヴィッチにとって大事なものであることが よく分かる。」 (トゥイッチ紙)

「タノヴィッチの感動的な社会的リアリズムのドラマは、貧しいロマの家族の戦いを、つつましく抑えたスタイルで描いている。衝撃的な差別の一例を、実際にそれを経験した人を起用して描くタノヴィッチは、低予算、手持ちカメラというスタイルで、ボスニア紛争中に撮影したドキュメンタリーのルーツに立ち戻っている。」 (ヴァライエティ紙)

 

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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