大高博幸さんの 肌・心 塾
2011.12.2

大高博幸の美的.com通信(78) 『エル・ブリの秘密』、『50/50』etc 試写室便りNo.19


料理界の革命児、フェラン・アドリア率いるシェフ達の 知られざる厨房に密着した貴重なドキュメンタリー。
新メニュー完成からお披露目に至る、その緻密なプロセスのすべて。
『エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン』(原題=EL Bulli Cooking in Progress)
★詳しくはelbulli-movie.jpへ。
<12月10日から全国順次ロードショー>

スペインのカタルーニャ地方、カラ・モンジョイという美しい入江に建つ三ツ星レストラン『エル・ブリ』のアトリエ。様々な調理器具が運び込まれ、来シーズンのメニューの開発が始まる。
スタッフ一同の真剣な顔、そして時折見せる喜びの or 優しいまなざしに思わず引き込まれてしまう113分。

この映画は予想していた以上に興味深く、グルメに限らず物作りに携わるすべての人々(たとえば化粧品会社の製品開発関係者)、そしてまた職種を問わず、自分の仕事を極めようとしているすべての人に見てほしいと思いました。
なぜなら、山ほどある素材&組合わせの中から調理法を選び抜き、見た目の美しさを工夫しながら、ひとつひとつのレシピをまとめ上げていく姿…、そこに徹底した職人気質・プロ根性・仕事に対する愛情と使命感があふれていたからです。

マツタケ、カキ(柿)、ユズ、ウメボシ、シャブシャブといった日本の食の名詞が、ところどころ日本語のまま発せられるのも何となく心地よかったのですが、アドリア氏やスタッフ達の会話に印象的な言葉が数多くありましたので、記憶が鮮明なうちに(100%正確ではありませんが)書きとめておこうと思います。

「我々が求めているのは、意外性と感動、そして新しい食感だ」
「こういうコトを毎年やっているのさ。大切なのは自分の仕事が好きだってコト」
「前衛的なレストランに不可欠なのは、うまいかどうかだけじゃない。第1に大切なのは感覚的要素だ」
「まずい…。コレはオイルが古いぞ。酸化してる」
「アイディアは突然湧いてくる。ちょっとしたコトから思いついたりもする」
「(だが、)アイディアは朝起きてすぐに浮かんでくるモノじゃない。創造とは日々の積み重ねだ」
「唇に優しいオイルのシルキーな感触。しかも口の中ではさっぱりします…」「いける。よく思いついたな」
「今すぐレシピを書きとめろ。コレにはふたつのアイディアが入ってる。書いておかないと、すぐに忘れるぞ。それで毎年、トラブルが起きてるだろ? とにかく今すぐ書いておけよ」
「PCのデータが消えてしまっています」「なんだと? 許さんぞ! 最悪だ…、どうして早く俺に言わなかったんだ? 20回分の試作だぞ!!」
「創作と調理はベツのモノと考えるコト。調理場では連携プレイが重要。みんな、忘れるなよ」
「これで何とか今年も行けそうだ」
「クタクタで死にそう…」「オレは脚が痛い…」「やあ、花に水やりかい?」「ああ。水やりは夜がベストなのさ」「花を見たら、お客さんが喜ぶぜ」「おい、あの月を見ろよ」「おお、キレイだ…」「道路から見ると、もっとキレイだ。大食いの○○はどこへ行った? キレイな月を見逃すぞ、おーい!」

これはドイツ映画ですが、カタルーニャ語とスペイン語とフランス語が飛びかいます。(But、字幕が読みやすいので、日本の観客にはむしろラク)。
監督さんは余計な演出ナシで、ケレン味やテライを全く感じさせません。撮影もとてもとてもキレイでした。

酒もタバコもやらない“普通”の27歳。
アダムが突然告げられたのは、生存率50%のガンだった――。
『50/50(フィフティ・フィフティ)』(原題=50/50)
★詳しくは、5050.asmik-ace.co.jpへ。
<12月1日から全国ロードショー中>

この映画は、主人公アダムに下された余命宣告が物語の軸となっているので、“難病モノ”には違いないのですが、珍しいコトに暗くはないのです。宣伝担当者さんは「全快祈願の難病エンタテインメント」と冗談でも軽口でもなく言っていましたが、まさにその通り。お定まりの陳腐な内容でも、ましてやオフザケでもなく、しかし笑いや微笑を誘うのです。こんな映画は多分初めてで、アメリカ国内では9月30日の公開以来、絶賛の声が数多く寄せられているそう。

アダムの“実在のモデル”である脚本家ウィル・レイサー氏が、PR活動のため10月下旬に来日したはずなので、ここに書いてもOKだと思いますが、大手術を終えたアダムを両親・親友・セラピストの4人が笑顔と涙で迎え、アダムはセラピスト(24歳の女性)との間に恋の芽ばえを確信、リハビリに立ち向かおうという明るく柔和な表情を見せるところで終ります。

アダム役のジョセフ・ゴードン=レヴィットが好演。2年前の『(500)日のサマー』(2009年11月10日配信・通信(2)で紹介)の時よりも、さらに目尻が下がった気もしましたが、草刈正雄似の彼が、草刈さん以上に日本人っぽく見えるのはなぜなのか…。シェーバーで頭を剃った顔など、大河ドラマあたりで町民 or 農民役を演じてもしっくりくるのでは? などと思ったりもしてしまいました。僕は彼に一種の親近感を抱いているのかもしれません。「ウエストにくびれがある体型が好き」というファンもいて、彼は今までいなかったタイプのスターだと思います。
それはともかく、彼の演技はリアルかつナチュラルで、臭みが少しもありません。

レヴィットを支えるのは、親友カイル役のセス・ローゲン。彼以外の俳優が演じていたとしたら、この映画の印象は相当変わっていたでしょう。セックスするコトばかり考えていて、汚い言葉を連発し、無神経の見本みたいな人物ですが、実は最高にいい奴で、芯は人並み外れて優しい。アダムの病状を知るに及び、『ガン患者と共に』とかいう本を密かに読み、重要なページには折りめや印を付けていたりする…。このカイルのキャラがアダムと正反対に近いコトが、この映画をエンタテインメントにしている最大の要因かも…。

まだ新米ながら誠実で、ヘンなプライドなどに毒されず、かといって卑屈になったりも全然しない若いセラピスト、キャサリン役のアナ・ケンドリックも適役好演。歯がちょっと大きいという気はするものの、キレイな目と肌(髪も)、前向きで清々しくデリカシィに満ちた表情がとても素晴らしい。

充実した人生のために大切なモノとは何なのかを、押しつけがましくなく教えてくれるクレヴァーな作品。親友 or 彼氏と一緒に、ぜひ観てください。上映時間は100分です。

12月公開作品では、『サラの鍵』『ブリューゲルの動く絵』も観ました。
『サラの鍵』(詳しくは、sara.gaga.ne.jpへ)は、ラストに向けての展開に僕は少々唐突感を覚えましたが、東京国際映画祭で最優秀監督賞と観客賞とをW受賞しただけあって、一見の価値ありの力作です。
『ブリューゲルの動く絵』(詳しくは、bruegel-ugokue.comへ)は非常にユニークな作りで、大人向けのビターなおとぎ話といった感あり。ブリューゲルの絵でも『雪景色』あたりを特に好む人には向いていないかもしれませんが、不可思議な魅力をたたえた作品です。僕は、シャーロット・ランプリングにお目にかかるのは『スイミング・プール』以来、8年振りでした。

なお、ルキーノ・ヴィスコンティの『ベニスに死す』(詳しくは、death-in-venice.netへ)と、ヴィットリオ・デ・シーカの『ひまわり』(詳しくは、eiga-himawari.comへ)が、ニュープリントでリバイバル。この2作は、まだ観ていない人はモチロン、以前一度は観た人にも、「この機会を逃さずに」と言いたい不朽の名作です。今は亡き巨匠たちの圧倒的な力量に、心を打たれるコト必至です。見なきゃ人生、大損しますよ。では!!

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