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2014.9.19

大高博幸の美的.com通信(247) 『不機嫌なママにメルシィ!』『悪童日記』 試写室便り Vol.75

mamanimeruci
ⓒ2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM

人生は笑ったもの勝ち!
ギヨーム・ガリエンヌが自伝的戯曲を映画化、
女装で “ママとボクの一人二役”に挑戦!
不機嫌なママにメルシィ!』 (フランス=ベルギー合作/87分)
9.27 公開。www.cetera.co.jp/merci

【STORY】 「開演5分前」の声に、ステージへ向かう ギヨーム・ガリエンヌ。俳優としての成功を手にした彼は 今日、ハプニングとサプライズの連続だった自らの青春時代を演じる。最初の台詞は、「ママ」。なぜか いつも不機嫌だけれど、この世で いちばん大切な人だ。
3人兄弟の末っ子で、ママに 女の子のように育てられたギヨームは、ゴージャスでエレガントなママに憧れ、スタイルから話し方まで すべてママを真似していた。兄弟や親戚からは100%ゲイだと思われていたが、なんとか息子を男らしくさせたいパパに、無理やり男子校の寄宿舎に入れられてしまう。そこでイジメにあったギヨームは イギリスの学校に転校、親切にしてくれた男子生徒への初恋に破れ、人生最初の絶望を味わう。自分のセクシュアリティを見極めようとトライしたナンパも、とんでもない結果に! うまくいかない人生に疑問を感じ始めたギヨームは、“本当の自分”を探す旅に出る――。(プレスブックより。一部省略)

フランスで大ヒット、300万人を笑いと涙で包み、2014年度 セザール賞(いわばフランスのアカデミー賞)の5部門を 見事に受賞した作品です。

ところで、監督・脚本・主演(しかも、ママとボクの二役)の ギヨーム・ガリエンヌとは? 日本では ほとんど知られていませんが、パリ16区の裕福な名門出身、国立劇団 コメディ・フランセーズの演技派俳優で、今やフランスで大人気。最近では 話題作『イヴ・サンローラン』(通信(244)参照)で、YSLのパートナー:ピエール・ベルジェ役を演じていた人です。

ストーリーの展開は 一部の例外を除いて 小気味よくスピーディ。そのせいもあって、細かいコトは少しも気にせずに面白く観ていたのですが、映画の中ほどで「幸せは人それぞれ。そっち(ゲイ)の人も幸せになれるはずよ」とママから言われたギヨームが、「えーっ!? ボクはゲイじゃないよ、男の子を好きな女の子なんだ。ボクはストレートだよ!」と叫ぶシーンには 相当ビックリ。そのビックリの度あいが強烈だった観客は、ラスト間際のオチにも「ガテンが いかない」というコトになりそうですが、実際は どうなのでしょうか?

それは それとして、本作で僕が特に気に入った場面は ふたつ。
ひとつは、劇中劇な空想シーンが挿入されるシークエンスで、ギヨームが “ゾフィー大公妃と皇后シシイの やり取り”を演じる部分。大公妃になっているママの メーク・扮装・身のこなしが素晴らしく板についている上、一人芝居中の姿をパパに見られたギヨームが 現実に戻る瞬間の面白さも最高でした。
もうひとつは、2度めのナンパに成功したギヨームが、肉体美のドイツ人的な青年のマンションに ついて行くシークエンス。ココでも また、空想で ママが登場するという仕掛け(どうやら ギヨームの “処女喪失”は、未遂に終わった らしい です)。

今、この紹介文を書きながら 気になってきたのは、本作が 日本で どのくらい受けるかというコト。そして、ギヨーム・ガリエンヌが 世界的な人気者になるか どうかというコト…。

 

akudonikki
Ⓒ2013 INTUIT PICTURES – HUNNIA FILMSTUDIO – AMOUR FOU VIENNA – DOLCE VITA FILMS

戦争末期のハンガリー。
疎開した双子は 大人の非情な世界を したたかに生き抜いていく――。
倫理を超えて 魂を揺さぶる 感動の物語。
悪童日記』 (ドイツ=ハンガリー合作/111分/映倫 PG-12)
10.3 公開。akudou-movie.com

【STORY】 第2次世界大戦下、双子の兄弟が「大きな町」から「小さな町」へ疎開する。疎開先は、村人たちから「魔女」と呼ばれる祖母の農園だ。
僕らは、粗野で意地悪な おばあちゃんにコキ使われながら、日々の出来事を克明に記し、聖書を暗唱する。強くなることと 勉強を続けることは、お母さんとの約束だから。
両親と離れて別世界にやって来た少年たちが、過酷な生活のなかで肉体と精神を鍛え、実体験を頼りに 独自の世界観を獲得していく。(プレスブックより)

この映画の原作は、1986年にフランスで刊行後、40以上の国で翻訳もされた アゴタ・クリストフ(ハンガリー出身の亡命女性作家)のベストセラー小説。『ソハの地下水道』(通信(114)で紹介)の アグニェシュカ・ホランド監督や 『偽りなき者』の トマス・ヴィンターベア監督らが映画化権を得たものの実現に至らず、昨年、ハンガリーの ヤーノシュ・サース監督によって遂に日の目を見たという作品です。
チェコの カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭では グランプリを獲得したほか、アカデミー外国語映画賞のハンガリー代表にも選ばれました。

プロローグは 親子四人の一家団らんの場面で、双子の兄弟は 両親に寄り添ったり抱きついたりして甘えている…。しかし、その場面に流れているのは 微妙ながら不穏な旋律で、それが忍び寄る戦禍を暗示しているコトに気づかされます。

登場するのは、ユダヤ人の靴屋のおじいさんを除いて、ほとんどが 奇妙 or 不可思議な人物たち。悪夢とファンタジーが一体化したような物語を通じて描かれるのは、サバイバルして行く兄弟の姿。空腹・寒さ・痛みに慣れて 耐える力を養うために、さらには 死や残酷な行為を 平然と冷血に受け止めて 生き抜くがために、ふたりは協力して自主的な “訓練”を積み重ねて行く…。その過程を、驚きと抵抗感と共感の入り混じった気持ちで、僕は真剣に見つめていました。たゞ、純粋無垢だった兄弟が、あれ程までに徹底した強靭さを備えてしまって いゝものか どうか…。自分自身の幼い頃、若い頃の出来事を想い浮かべたりもしながら、いろいろと考えさせられてしまいました。

本作が、自分の現在の生きかたを見つめる、または 過去を振り返って見つめるための 機会を与えてくれる作品であるコトは、確かだと思います。
秋の映画シーズンにこそ ふさわしい 深く鋭い作品なので、ひとりで or 特に親しい友人と観るのがオススメです。

P.S. 早川書房から、堀 茂樹訳による原作本が出ているそうです。
『悪童日記』(ハヤカワ epi文庫)。
僕も一度、読んでみたい。長すぎないと いゝのですが…。

 

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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