人気作家・川上未映子さんの「25」にまつわるStory「魔法のしるし」|『美的』25周年特別寄稿
『美的』創刊25周年特別寄稿。作家・川上未映子が紡ぐ、「25」にまつわるstory。
25歳・25日・25分・25時 それはとくべつなタイミング「魔法のしるし」

時間というのは不思議なもので、流れているのか、過ぎ去っていくものなのか、そもそも本当に存在しているものなのかも、わかりません。でも、これまでをふりかえってみたり、未来を想像するときに、自分と世界にしるしをつけて、自分がどこにいるのかを、確かめてみたくなる。あれは何年、あれから何ヶ月、何歳になったら…!
わたしたちは、いろんな数字で日々にしるしをつけることができますが、なかでも自分にとってひときわ輝いてみえるようなしるしが、いくつかありますよね。記念日にちなんでいたり、きりがよかったり、あるいは、ただ好きなんだよね、といったように…。
わたしにとっては「25」が、まさにそれ。人生のなかで無数に瞬(またた)くしるしのなかで、これまで何度も刻まれてきた25という数字は、いつだって、高揚と気づきを与えてくれるのです。
たとえば「25歳」。
今はもっと早くに成人するということになっているけれど、わたしにとっては25歳こそが、いよいよ本当の大人になるための一歩を踏みだす年齢だ、という実感がすごくある。社会に出て数年がたって、まだそこまで経験があるわけじゃないけれど、でも後輩なんかもちらほらできて、どんなふうに体を動かせばいいのかがわかってきて、足が勝手に光るようにつぎのステップを踏みはじめるような、そんな幕開け。
わたしは東京で暮らすようになってからちょうど25年がたったのだけれど、わたしにとって上京は、自分の人生を自分のために一から始めるような大きな出来事でもあったから、精神的にはやっと25歳になった、という感じなのかもしれない。ここにきてようやく(!)、本当の意味で、この街のことも、仕事のことも、人のことも、わかりはじめてきたような気がしています
たとえば「25日」。
これも印象的なしるしにしたい数字です。つぎの月がみえてきて、でもまだ少し時間がある。やり残したことはないかな、来月はどうかな──報酬を受け取る人も多く、その月の成果と手応えをしっかり感じつつ新しい時間へ備える、何にも似ていないとき。「おつかれ!」と「やった!」がマーブル模様になって渦巻いて、わくわくしますよね。
そういえば「25分」にも、そんな雰囲気が満ちています。楽しい時間を過ごしているなら「まだ25分、あと35分もあるね」と思えるし、それが試練の時間なら「もう25分がんばった、残り35分、駆け抜けるぞ」と自らを鼓舞し、そのときの心持ちで、いかようにもムードを変えて励みをくれる、まさに親友のような数字と言えましょう。

休日前の「25時」も、たまりません。
もっと観たいドラマや読みたい本、お酒だってもう少し飲みたいし、おしゃべりしたい相手もいるのに、ふだんは大人しくベッドにいなければならない時刻。でも今夜は、まったく平気。なんなら、これから夜のいちばんいいところが、とんでもなくいい香りをさせて待っているような、静かなときめきすら覚えてしまう。
ああ、「25」は、こんなにもわたしたちに、いろんな角度から、いろんな大きさ、いろんな手触りの希望を感じさせてくれる、マジカルなしるしなのです。
さて、読者のみなさんと、美容について、どんなときも明るく楽しく語りあってきた本誌は、25周年を迎えました。25という数字が、とてもぴったりしていて、これからどんなコスメや美容法に出合えるのだろうと、胸の底から、わくわくします。わたしたちの美しく健やかにありたいという気持ちは、おなじ時代をともにするあらゆるものと手をとりあって響きあって、進化しつづけます。
これからも読者のみなさんと、とけない魔法をかけあって、何度でも、とくべつなしるしをつけられますように!
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
Mieko Kawakami/1976年大阪生まれ。2008年『乳と卵』(文藝春秋)で138回芥川賞を受賞。その後も話題作を次々と世に出し、世界中で翻訳され愛されている。