“Mattママ”桑田真紀|主体性ナシの無口だった私がよりどころとしていたのは母と姉【全方位「推し活」力の磨き方 vol.2】
夫は有名アスリート桑田真澄氏、息子は時代のアイコンMatt氏。そのふたりを公私ともに支えるのが桑田真紀さんです。この連載では桑田家を陰で支えている真紀さんの「応援力」に注目。夫、子供、義理両親、上司・部下・同僚、ママ友など、すべての人間関係に応用できて、みんなが幸せになれる「サポート思考」力を考えるエッセイです。
自分は何者でもないからこそ、才能のある人を応援したい(2)
桑田真紀
東京都生まれ。航空会社CA、専業主婦を経て、現在は夫・桑田真澄(読売ジャイアンツファーム総監督)と次男・Matt(アーティスト)のマネジメント会社を経営。趣味はゴルフ。著書に『あなたはあなたのままでいい 子どもの自己肯定感を育む桑田家の子育て』(講談社刊)がある
主体性ナシの無口だった私がよりどころとしていたのは母と姉
引き続き、自己紹介が続いてしまいますが、どうして私が「才能ある誰かをとことん応援したい」という気質なのかを知っていただくために、もう少しお付き合いください。
私には2つ上の姉がいます。子供の頃は、姉と同じ習い事をして、姉と同じ学校に行って、姉とその友人が遊びに行くと言えば、それにくっついていく。私はかなりのお姉ちゃん子でひとりでは行動できないというより「しない」子でした。私は部活にも入らず、同級生とどこかに出かけるのも苦手。姉にくっついて姉の友達と過ごすのが日々の秘かな楽しみでもありました。
姉はとても利発で自分の意見や気持ちを表現するのが上手な人。実際、姉が全部しゃべってくれるので、私は全くといって話さない、姉の隣に「いるだけ」の子。大げさではなく、姉の言うことにただ相槌を打つのみなのです。当時の私は、姉の性格や資質に憧れていたのでしょう。言葉にはならないくらいの心の深いところで。今、考えると、自分にないものを持っている人、そんな自分とは真逆の人をそばで静かに見守るという居場所が心地よかったのかもしれません。
「しゃべらない」といえば、結婚前に主人と会っている時も、本当に無口で。それには主人も半ば呆れていましたね。とにかく、感情がフラットで表に出ないのです。もしかしたら、心の奥底のどこかで、敢えて感情を出さないようにと思っているのかもしれません。時々、「どうして怒らないの?」「怒りの感情ってないの?」と訊かれることがあります。ないわけではないのです。でも、「私がこう言ったら何か言い返されるのかな」「こう思われるのかな」と先に考えてしまう。年齢を重ねてきた今は、少し変わってきましたけどね。
実は、私は両親から一度も叱られたことがありません。というと、「かなり甘やかされていたのだろう」とか、逆に「何も注意することがない、よくできた子だったのだろう」と思われるかもしれません。いえいえ、どちらでもなく、私は全くしゃべらない子だったからなのです。親も怒りようがないくらい、おとなしい性格でした。
母や姉のように家族や身近な人から頼られる大黒柱でありたい
そんな人見知りの私なのに、中3から高2まで芸能事務所のレッスンに通っていた時期があります。音楽が大好きだったので、歌手になりたいという漠然とした憧れはあったものの、「自分は人前に出るのは違うかも」と勝手に封印していました。事務所に入るきっかけとなったのも「姉がいたから」。姉が通っていたレッスンに私もついて行ったところ、そこにいた事務のかたに「せっかく来たのだから、あなたもついでに歌ってみたら?」と促されて、歌ってみたら「うちの事務所に入ってみませんか?」となって。誘いを受けてうれしかった反面、意外な展開に「両親に訊いてみないと……」と半ばやんわりと断るかのようにつぶやいたら、「奨学金が出るからお金はかからないわよ」と。
結局、家族会議を経て、「お姉ちゃんと一緒に行ける。お姉ちゃんがいるんだったら行きたい」とレッスン通いが始まりましたが、しばらくすると「歌手になるのなんて、そんなに甘いもんじゃない」と気付いたのです。だって、私は「普通」なんですから。めちゃくちゃ上手いんじゃなくて、「普通に上手い」程度の私ではダメだと。今も昔も、困った時には母に相談。「人生長いんだから、ちゃんと見極めないと」と自ら決断し、高校2年生で辞めました。「もうちょっと。もうちょっと」と、ズルズルしないのが私の気質。また、この頃「私は何者でもないから、才能があってがんばる人を応援したい」という自分の願望や使命にうっすらと気づき始めた時期でもあります。
母はいつも正しい方向に導いてくれる人でした。大きい声を上げる人ではなく、昔も今も、冷静にアドバイスをくれるのです。母からは「波のある人生ではなく、フラットなほうがいい」と教えられていたので、主人と結婚する際には反対されました。「お願いだからサラリーマンと結婚して」と。ちなみに父は賛成でした。当時の男性は野球好きが多かったからでしょうか。
冷静で的確で真っ当な母。しっかりしていて、うわついたところが全くないのです。母はいろいろ苦労してきた人なので、困難な経験がそういう気質をつくったのかなと想像しています。私は今でも悩むと母に相談します。そして意見交換するんです。とても頼もしい心の支えで、母に「いいんじゃない?」と言われるとホッとします。あんなに「一生独身でいたい」と思っていた私も、家族を持つことになった今、母のように「家族にとってのよりどころでありたい」と強く思うのです。
続く
撮影/天日恵美子(人物) ヘア&メイク/広瀬あつこ 構成/三井三奈子
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