大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.3.20

『 ウィンストン・チャーチル 』『 修道士は沈黙する 』『 娼年 』『 サイモン & タダタカシ 』 試写室便り 【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.439 】

ビューティ エキスパート大高博幸さんの試写室便り。今回ご紹介する映画は『 ウィンストン・チャーチル 』『 修道士は沈黙する 』『 娼年 』『 サイモン & タダタカシ 』

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©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.

「 政界一の嫌われ者 」から「 伝説のリーダー 」となったチャーチルの、真実の物語。
ダンケルクの戦いの裏で下された、
歴史的決断とは――。

第 90 回 アカデミー賞® W受賞!

ウィンストン・チャーチル
ヒトラーから世界を救った男
イギリス/ 125 分
3.30 公開/配給:ビターズ・エンド/パルコ
www.churchill-movie.jp

【 STORY 】 1940 年、第二次世界大戦初期。ナチス・ドイツの勢力が拡大し、フランスは陥落間近、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた。連合軍がダンケルクの海岸で窮地に追い込まれるなか、ヨーロッパの運命は、新たに就任したばかりの英国首相 ウィンストン・チャーチルの手に委ねられた。度重なる失策から〝 政界一の嫌われ者 〟であったチャーチルは、政敵たちに追いつめられながら、ヨーロッパのみならず 世界にとって究極の選択を迫られる。ヒトラーに屈するのか、あるいは闘うのか――。( プレス資料より )

絶体絶命の状況下で、損な役割を 押しつけられた形での首相就任から ダンケルクの戦いまで、伝説のリーダーの 27 日間を追った歴史エンターテインメント。

ニュースで大々的に報じられたので、読者の皆さんも御存知と思いますが、メイクアップに 200 時間以上をかけて チャーチル役に挑んだ名優 ゲイリー・オールドマンが アカデミー賞®主演男優賞を、その特殊メイクを担当した辻一弘 ( 辻の しんにょうは、正しくは テンが ひとつ ) が 日本人で初めて 同賞の メイクアップ & ヘアスタイリング賞を受賞した、誉えある作品です。
チャーチルに似せた特殊な扮装メイクが実にリアルかつナチュラルで、試写招待状を手にした瞬間、そこに印刷されているチャーチル役の男優が G・オールドマンだとは分からず、僕は 彼の名前を 他の誰かと間違えて憶えていたのかもと、自分を疑ったほどでした。

これは、チャーチル ( 1874 ~ 1965 ) の没後に公表された 戦時内閣の閣議記録によって明らかとなった事実を基に、チャーチルの苦悩と知られざる素顔を 余すところなく描いた力作です。
撮影は基本的にローキイで、そこに灯るスタンドの明かり、窓から差し込む淡い光線など、計算されつくした明暗のコントラストが 一貫して 非常に美しい。また、時代を如実に表わしたセットや衣裳等々、全てが完璧な職人芸によって作り上げられています。

場面としては、チャーチルと 新任タイプライターとして登場するエリザベス ( リリー・ジェームズ ) との やり取りが、画面に変化を与えながら 両者の人となりを興味深く描写して、微笑や共感を誘います。
また、国王ジョージ 6 世から「 町へ出て 国民の声に 耳を傾けるように 」とアドバイスされたチャーチルが、その翌日、ひとりで地下鉄に乗るシークエンスが感動的。案内板を見ても見当のつかない彼が、近くにいた 10 歳前後の少女に ウェストミンスター行きの乗り場を訊ねる辺りから、乗車した車両内で一般の市民たちと会話を交わすという件りでは、子役を含む無名の俳優たちの演技が実に素晴らしく、僕は胸が震えて大粒の涙をこぼしました。チャーチルは 彼らの声に意志を固め、下院に集まった議員に向けて「 ナチスとの和平交渉には応じない 」とする主旨の演説を力強く行い、一同から絶大な支持を得るのです。

G・オールドマンの演技で最も驚かされたのは、その眼の表情でした。どう驚かされたかは 敢えて書きませんので、皆さん自身の眼で確かめてみてください。
助演者で最高の適役は、エリザベス役の L・ジェームズ ( 『 タイタンの逆襲 』『 シンデレラ 』『 高慢と偏見とゾンビ 』等に出演 ) 。彼女は 本作での演技で、ついに 一流女優の仲間入りを果たしたと 僕は感じました。その美しさも、今までで最高です。

監督は『 アンナ・カレーニナ 』『 PAN ネバーランド、夢のはじまり 』等の ジョー・ライト。
想像するほど 重く固苦しい映画では ありませんので、その点は 安心して観てください。

 

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(C)2015 BiBi Film – Barbary Films

ドイツの高級リゾートホテルを舞台に繰り広げられる、社会派ミステリー。

イタリアの鬼才、
ロベルト・アンドー監督 最新作。

修道士は沈黙する
イタリア、フランス/ 108 分
3.17より公開中 /配給:ミモザフィルムズ
Shudoshi-chinmoku.jp

【 STORY 】 イタリア人修道士 ロベルト・サルスは、世界の経済を牛耳る大臣たちの集まりに招かれ、ひとりの天才的な金融マンの意外な告解 ( こっかい ) を聞く。その翌朝、訪れる金融マンの 謎の死。自殺か、他殺か? 前夜に故人の告解を受けた修道士に 殺人の疑惑が向けられる。弱肉強食の自由経済を司る権力の中枢で 思わぬ事件に巻き込まれた彼は、戒律である〝 沈黙の誓い 〟を守り続けるのか? そして 世界の運命を大きく左右するかもしれぬ、故人が遺した〝 ある秘密 〟とは――。( プレス資料より。一部省略 )

各国の財務大臣たちの 専横的な考え方、政治的な駆け引き、そこに潜む良心の呵責と葛藤。一方、白衣とサンダルだけが大切な所持品で、自分の人生さえ自分の物ではないと心から考えている修道士のサルス。これは〝 物質主義 VS 精神主義 〟の構図を核に据えた、知的でスタイリッシュな異色のミステリー。

G 8 の財務相会議に興味が持てない上、グランド・シャルトリューズ修道院の明け暮れを映し出したドキュメンタリー映画『 大いなる沈黙へ 』( ’05 ) に退屈してしまった僕だというのに、本作には 意外にも、相当 惹きつけられました。財務大臣たちを 一般人と同じ人間だと考えて観始めたら、ガゼン 面白くなってきたのです。

原題の『 Le Confessioni 』= 告解は、正確ではないかも知れませんが、分かりやすく言うと 懺悔 ( ざんげ ) を意味し、サルスが告解者 ( 国際通貨基金の D・ロシェ専務理事 ) の質問に対して答える「 神の赦しに限りはない。だが、心なき悔悟に 赦しは与えられない 」という言葉が意味深長…。
しかし それにも増して、ロシェの葬儀でのサルスの説教に、厳粛かつ圧倒的な真理の力強さが表われています。これに次ぐ、サルスとロルフ ( 一財務大臣の愛犬 ) との ユニークなラストシーンの素晴らしさ。 詳しくは書きませんが、「 この犬こそ、本作の第二主役では? 」と R・アンドー監督 ( 原案と脚本も ) に質問したならば、「 そのとうり! 」という答が 返ってきそうな気がするほどでした。

サルスを演ずるのは、数々の受賞歴を持つ イタリアの名優、トニ・セルヴィッロ。

 

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(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会

僕を、買ってください。

娼夫 リョウが見つめた、
生と性の深奥――。

娼年
日本/119 分/ R18+
4.6 公開/配給:ファントム・フィルム
shonen-movie.com

【 STORY 】 退屈な日常を送る 20 歳の大学生・森中領は、会員制 ボーイズクラブのオーナー・御堂静香に誘われ〝 娼夫 〟となる。リョウは さまざまな女性たちと身体を重ねながら、彼女たちの心の奥に隠された欲望や心の傷を優しく癒し、自らも人間として成長していく。( 試写招待状より )

原作は 直木賞候補となった、2001 年発表の石田衣良の同名小説 ( 集英社文庫刊 ) 。’16 年 8 月に 松坂桃李の主演で 三浦大輔が演出して評判となった舞台を、舞台と同じタッグで映画化した作品です。

全篇の約半分 or それ以上がセックスシーンで、その部分のみを観たなら、正直に言って「 ポルノ映画? 」と思ってしまいそうな印象を僕は受けました ( 特に、リョウが 熱海まで出張する 泉川夫妻との場面 ) 。原作と舞台については何も知らないので 言う資格はありませんが、これは小説を読むのが一番なのでは と勝手に思ったりもしてしまいました。

とは言え 松坂桃李は、彼ならではの品位を保ちながら〝 娼年 〟リョウを熱演。リョウを買う女性たちの中で 秀逸だったのは、美しい〝 老女 〟役の江波杏子。女優としての彼女の存在感そのものが〝 生と性の深奥 〟を強烈に感じさせて、実に素晴らしかったです。

リョウにダブらせて観ると面白いのは、ジェシカ・チャステイン主演作『 女神の見えざる手 』( Vol.417 ) で ジェイク・レイシーが好演した〝 エスコートサービス 〟の男性。彼は年齢も経験値も リョウより上のプロフェッショナルでしたが、リョウも彼のように〝 成長 〟していくのだろうと想像しながら、僕は試写室を後にしました。
しかし、ひとつ心配になったのは 病気です。高級な会員制のボーイズクラブとはいえ、いつ HIV 等に感染するか、誰にも分からないのでは?

 

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(C)2017PFFパートナーズ(ぴあ ホリプロ 日活)

親友に 叶わない恋心を抱くサイモンと、
その想いに全く気づかない 鈍感なタカシのロードムービー。

好きな人が 絶対に自分を好きになってくれなかったら どうする?

サイモン & タダタカシ
日本/ 86 分
3.24 公開/配給:日活
SAIMON-MOVIE.COM

【 STORY 】 工業高校 3 年生。卒業後は 大学に進学するサイモンと、実家の工場を継ぐ親友のタダタカシ。男だらけの生活に焦ったタカシは、サイモンと共に〝 運命の女 〟を探すための旅に出る。ギター片手に 全力で突き進むタカシに対し、秘めた想いを伝えられないサイモン。夜空に流れ星が降った夜、それぞれの想いを抱えた旅は、予測できない結末へと進みだす。( 試写招待状より )

若手新人監督の登竜門「 PFF ( ぴあフィルムフェスティバル ) 」に入選し、革新的でチャレンジングな作品に贈られるジェムストーン賞を受賞した小田学監督 ( オリジナル脚本も ) の長篇デビュー作。

宣伝コピーに〝 ジャンルレス映画 〟という形容がありましたが 確かに そのとうりで、少くともステレオタイプの青春映画とは趣を異にする内容です。サイモン ( 新人の阪本一樹。チラシ画像、右 ) が タカシ ( 須賀健太。同、左 ) に一目惚れした瞬間、画面がトツゼン勢いよく線画のアニメーションになったりする他、人形アニメが出てきたり、何の前触れもなく宇宙船が現われたりする…。そこに単なるオフザケではないユーモラスな面白さがあって、僕は何度も何度もクスクス笑いをしたり、思わず「 ワハハ 」と声を上げたりしながら観てしまいました ( 周囲の方々も、少くとも半分くらいは同じ反応を示していました ) 。
小田監督の映画作家としてのスケールは 1 作ごとに大きくなっていくはずで、今後の活躍が楽しみです ( 試写終了後に 20 秒ほど話をさせて頂きましたが、彼は 謙虚で素直な性格の方だと 僕は感じました。彼の横に 行儀よく立っていた阪本一樹クンは、清潔で賢そうな 現在 19 歳の美少年でした ) 。

STORY 紹介文にある「 〝 運命の女 〟を探す… 」は言葉のアヤのようなモノで、実際は「 一日も早く 童貞と おさらばしたい。このまゝじゃ 一生 童貞かも 」というタカシの 切実な願望 × 焦り。そんなタカシに恋心を抱いているサイモンは、ヤキモチを焼くワケでもなく、ごくフツーの顔をして タカシに付き合ってあげるという図式。たゞし〝 旅 〟の途中で マイコ ( 間宮夕貴 ) と高木 ( 山本圭祐 ) という人物が登場してくる部分は、かなり冗長 ( 僕は その辺り、少しも面白いとは 感じませんでした ) 。この点、小田監督は なぜなのかを 熟考すべきだと思います。今後のために、心から…。

サイモン役の阪本一樹と タカシ役の須賀健太は、一見、愛し合うには不似合いなようでいて、実は似合いのコンビという雰囲気が とてもよく出ています。鈍感すぎるタカシに サイモンが想いのたけを打ち明けるシーンでは、ミョーに強調するどころか 淡々とした演出がなされていて、僕は それが とても良かったと感じました。また、フロイトの言うリビドーの存在を サイモンの台詞で サラリとながら明確に打ち出す一方、中途半端なキスシーンなどは 排除した潔さも、この映画を気持ちの良いモノにしています。

タカシ役の須賀健太 ( ’05年の『 ALWAYS 三丁目の夕日 』に子役として出演していた男の子 ) は、最近作『 ちょっとまて野球部! 』での演技を含め、単純なオチャラケで済ませても どうにか なるようなところまで、俳優としての感覚と意識をもって、真剣に演じているコトが 何となくながら伝わってくる…。僕は そこが立派だなぁ、偉いなぁと思ったりもしました。
脇役では、タカシの父親役の菅原大吉に 懐かしいような味があり、サイモンに絡むツッパリの不良役の井之脇海が 個性的で面白かったです。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
質問がある方は、ペンネーム、年齢、スキンタイプ、職業を記載のうえ、こちらのメールアドレスへお願いいたします。
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biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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