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2022.5.17

ゲスト・松田美由紀さん|作家LiLyの対談連載「生きるセンス」第4話「育児とコスパ」

40歳以降は生き方が顔に出るという。そして生き方にはセンスが出る。 私たち、どう生きたらいいですか? 40代からの人生が輝く"読むサプリ"。 記念すべき初回のゲストは、女優で写真家の松田美由紀さんです。 【作家LiLy対談連載「生きるセンス」第1 回ゲスト・松田美由紀さん 】

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「女の人は何が大変かって、いろんな顔を持つところ。
ニーズによって顔が変わる。
自分でも、どの顔が自分なのかがよくわからなくなるくらいに、
常にいくつもの顔を使い分けて生きていっているわけじゃない?」

美由紀さんの問いかけに、
頭が取れそうになる勢いで私は首を縦に振る。

仕事をしている時の自分、
オンナとしての自分、
そしてお母さんとしての自分。

もちろんどれも自分だけれど、それぞれのシーンによって違う側面を見せながら生きている。

個人的には、「女」と「母」は一人の中に共存する対極のような顔だとすら思っているので、
そこにはキッパリ・クッキリと線を引いて分けていたいと強く思っている。

子供の頃、いつもは「いいお母さん」である母が、父と向き合うといきなり子供には理解不能なテンション
(つまりは「女」という生き物)へと豹変することがすごく嫌だったので、
自分が子供たちの前で「女」になることを自分に禁じている節がある。
が、家庭内で「女」と「母」を両立できなかったこともまた原因の一つとして私は結果的に離婚をしている。
一方、母は父と今もなお現役で喧嘩もしながらすこぶる仲が良く、もうすぐ金婚式!

子供たちにとっての「良い母親像」とは、正解もなければこのように
自分自身の子供時代からの影響なども絡み合ってくるので、とても難しい。
そして、自分の中での「女」「母」「仕事をしている自分」「ただの自分」の棲み分け
(またはそれらの行き来)も同じくらい一筋縄ではいかないもので、
「どれが本当の自分だかわからないくらいに大変」という美由紀さんの言葉には共感しかないのだ。

女はコロコロ変わるから怖い、などとも言われたりするが、
まるで別人であるかのように顔を変えずにはこなせないのが母親業だったりもするわけで……。
果たしてそれが本能レベルで自然と変化するものなのか
(子供を幸せにしたいという強烈な願望から自然とそうなっている部分は確かにある)、
または社会によって刷り込まれた母親像の影響からなのか
(物心ついた時から外部からの刷り込みによってつくられ続けた“良いお母さん象”に
自分自身も呪われているような気分になることも多々ある)。
もはや、どちらが理由なのかも正直なところ自分でもよくわからない。

「私も意外と保守的なタイプだから、
子供が満たされるお母さんになってあげたいと強く思うほうなのね。
たとえば、子供にとってはエプロンをつけるようなお母さんになったほうがいいのかな?ってところまで」

美由紀さんの言葉に思わず

「つまりは“お母さん”って
サンタさんみたいなものよね」

と言うと、

「そうだね。サンタさんなら赤と白の服じゃなくっちゃ!みたいなところでも本当にそうだよね」

と美由紀さんも同意する。

「“お母さん”ってやっぱり、
世界中の老若男女が一緒になって
創り上げ続けている壮大なファンタジー。

私自身が子供の頃も、自分の母親に対して、
お母さんのくせになんでそんな幼いことを言いながらお父さんと喧嘩しているの?
ありえない!って怒っていたわけで、
今思うと、自分の中のサンタさんみたいな母親像を自分の母に押し付けていたわけ……。
思春期に入った頃には、些細なことでもいちいち心配してくる母がうざったくって、
もっと肝っ玉母さんになってよ!って叫んだことがあったの。
そしたら母に、あなたは私に別の人間になれっていうの?と返されて。
正直、ハッとした。それは無理だよなって、自分で言ったことの無茶苦茶さに我に返ったというか……」

「そう。“お母さん”というカテゴリーがあって、
そこはもはや、個人とは関係がないわけですよ。

子供からしたらずいぶん都合の良いファンタジーだな、と。
だけどやっぱりそういうニーズにも多少は応えなければならないし、
でも同時に、自分探しもしなきゃいけない。
もう、本当の私はどんな人間なんだろう?って当時は随分もがいていた。
だから、今のリリィもそうだけど、育児中は人生の中でそういうところも大変な時期」

まさに私の30代が
丸ごとソレの葛藤であった。

28歳と30歳で出産し、“赤ちゃん育児”に奮闘しながらも、
軌道に乗ってきた仕事もどんどん忙しくなり、
同時に女としても綺麗な時期で、
「母、仕事、女の旬」が同時期に集中してしまったことに途方に暮れそうにもなっていた。
が、40代に突入した今、やっと自分なりの解決策が見つかったところにいる。
すべてを同時期にやろうとすれば、誰だってキャパシティオーバーを引き起こす。
もちろん、仕事をする母親である以上どちらもやるにはやるのだが、
プライオリティの順序づけ(つまりは優先順位)を、明確に、
大袈裟なくらいクリアに自分の中で決めてしまうのだ。
思い返してみれば“赤ちゃん育児”中も、友達に遊びに誘われても行けないことがストレスになるため、
ここから数年間は誘わないで!と宣言して「母の顔」に集中していた。

同時期にいろんな顔を使い分けるのではなく、
人生の「時期」で自分の「顔」を分けていく。

美由紀さんに出会った秋にはまだ0歳だった息子が、今年の春に中学一年生になった。
二歳差の娘は、小学五年生に。

育児もラクになってきた頃だね、と言われる時期だが、
個人的な実感としては二人がセットで小学校低学年だった頃が1番ラクだったように思う。
今はまた、「教育」へと本質を変えた「育児」に、文字通り奮闘中。
トッププライオリティに「母の顔」。
教育費がかかってくるので当然のごとく「仕事」にもこれまで以上に力を入れる。
となると、必然的に弾き出されるのは「女の顔」。ここからしばらくは、それでいいと思っている。

「数年前から、育児の第二の“押さえどころシーズン”がきた!と思って
子供たちと向き合うことに集中している」
と話すと、美由紀さんは
「うん。他のことは後からいくらだってできるからそれでいいのよ!」
と全肯定してくれた。

「育児の実際のコアタイムは、
たったの10年くらいなんだよね。

子供にとって親がリアルに必要なのって凝縮すると10年くらいで。
そのたった10年の間に一人の人間の人格形成が成されると思ったら、
子供にとってはあまりにも貴重な時間なわけですよ。
大人にとっては、たったの10年だけだよ? たった10年だけは頑張ってね!って
いつも私は(お母さんたちに)言うようにしているの」

「ものすごくよくわかる」と、
まだ育児を完走したわけでもないのについつい私は力を込めて同意してしまった。
だって、「そうしたほうが、人生単位で見た時にずっとずっとコスパがいいよね?」
コスパ=コストパフォーマンスといるワードを使うと愛がないように響くけれど、
意識的に子供たちにとっての「子供時代」をより豊かなものにしようと
戦略を練ることこそ愛のスキルだと思う。
「本当にそうですよ! たとえばだけど、
子供にとっての大事な時に親が恋愛に走ったりなんてしちゃったら、
それこそ一生呪われて取り返しのつかないことにもなりかねない。
もうね、そういうのは、後からいくらでもできるから、
コアタイムは“いいお母さん”として頑張るのが自分のためにも子供のためにも一番いいと思う」

頭がもぎ取れそうになる勢いで、
私は首を縦に振った。(二度目)。

なにも、お母さんだけに限らない。お父さんだって、そうだ。
「今しかできないこと」をプライオリティのトップにすること。
子供にとっての「子供時代」がたったの1回しかないように、
親子が密な関係でいられる時期というのもまた有限で、そしてとても短い。
親としての「愛」とか「モラル」とか、そのようなものを越えた視点、
つまり「現実的にどちらが得か」で考えてみても、そう。

たったの10年後には赤の他人へと巻き戻っている可能性が高い恋愛相手を、
10年後も20年後もその先もずっと親子という永遠の関係でいられる子供よりも優先するなんて、
人生百年単位で考えたら非合理的な生き方だと思うのだ。
そして当然、親としての「責任」という観点からも、
幼い子供より恋愛相手を優先することによって下がった人間力だってきっと一生つきまとう。
ただ、私の場合は離婚後も元夫と一緒に日々の育児をしているので、
一人で子供を育てる不安と闘いながら再婚を願うシングルマザー・ファーザーの方に、
育児の大事な時期には恋愛は控えたほうが良いなどと言う資格はないし、
そう言いたいわけでももちろんない。
でも、いろんな顔を両立させなければならない状況であるならばあるだけ、
「押さえどころは必ず押さえる」は有効なやり方だと思う。
「そう。恋人同士だってそこは同じじゃない?」と美由紀さんは言う。
「クリスマスと誕生日を押さえておけば、あとは気を抜いていてもまぁうまくいくというか。
育児も同じですよ。誕生日とか、遠足とか、そういう記憶に残りそうなイベントで頑張るの!
あとは、育児って、いってみれば平坦な日々だからつまらないといえばつまらないじゃない?
だから子供たちと一緒に暮らしていた頃は、日常の中にもお祭りをつくってた。
小さなことでもイベントにしちゃうの。今日はカレー! カレーパーティーだ!って
子供たちを盛り上げちゃうのもオススメです」

 

▶︎▶︎ つづく ▶︎▶︎
第5話「スーパーナチュラルに合理的」

松田美由紀:女優、写真家。’61年生まれ。モデル活動を経て、スクリーンデビュー。近年は写真家、アートディレクター、シャンソン歌手としても活躍。環境問題や発展途上国の孤児たちへの支援、自殺防止問題や、エネルギーシフトなどにも積極的に取り組んでいる。

LiLy:作家。’81年生まれ。神奈川県出身。N.Y.とフロリダでの海外生活を経て上智大学卒。25歳でデビューして以来、女性心理と時代を鋭く描き出す作風に定評がある。小説、エッセイなど著作多数。instagram @lilylilylilycom noteはこちら

文/LiLy 撮影/竹内裕二(BALLPARK)ヘア&メイク/三田あけ美(松田さん)、伊藤有香(LiLyさん) 構成/三井三奈子(本誌)

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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