【大高博幸さん連載 Vol.362 】 『 人間の値打ち 』『 ベストセラー / 編集者パーキンズに捧ぐ 』『 ハート・オブ・ドッグ 〜犬が教えてくれた人生の練習〜 』『 男と女 』 試写室便り No. 124

ミラノ郊外の豪奢な邸宅を舞台に、
人びとの欲望が 複雑に交錯する――。
人間の真の価値とは何かを問う、
ラグジュアリー・サスペンス。
人間の値打ち
イタリア/109分/ PG 12
10.8 公開/配給:シンカ
www.neuchi-movie.com
【 STORY 】 クリスマスイヴ前夜、イタリア・ミラノ郊外で起こった 一件の ひき逃げ事故。この事故を きっかけに、上流・中流・下層と、経済格差のある 複数の家庭に隠された 秘密と欲望が浮かび上がってくる。身の丈に合わない危険なファンドに手をだし 一攫千金を夢見る男。豪奢な邸宅に暮らし 豊かな生活をおくりながら、自分の存在意義を見いだせずにいる富豪の妻。裕福な子女が集う名門校に通い、金持ちのボーイフレンドはいるものの 愛に懐疑的な女子高校生。彼らは 事故が起こった その晩、どこで 誰と一緒にいたのか、真実を知る者は 誰なのか……。 ( プレスブックより )
ひとり娘の高校生 セレーナが、富豪のブローカーの息子と恋愛関係にあるのを利用し、野心家の不動産屋 ディーノが 積極型ファンドで 一攫千金を目論んだコトに端を発する、社会派サスペンスドラマ。フラッシュバックによって重なる部分が 重要な意味を持つ四章から成り立っていて、章が進むごとに 登場人物たちの 事情・心情が 明らかになっていくという展開。
あきれるほど賤しく下司なディーノ ( 上の画像で 眼鏡をかけている中年の男。演ずるのは ファブリツィオ・ベンティヴォリオ ) 、その娘で 相当しっかりとした自我を持つセレーナ ( 上の画像で 椅子に座っている。マティルデ・ジョリ ) 、富豪のブローカーのジョヴァンニ ( 上の画像、中央。ファブリツィオ・ジフーニ ) 、その妻のカルラ ( ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ ) 、ふたりの息子 マッシ ( グリエルモ・ピネッリ ) を中心に、妊娠中のディーノの後妻 ロベルタ ( ヴァレリア・ゴリノ ) 、セレーナの新しい友だち ルカ ( 下のスティル、右。ジョヴァンニ・アンザルド ) らの絡みが、欲望、多様な愛、絶望、そして一筋の希望を紡ぎ出していきます。
ビリング順位 筆頭の V・B・テデスキは、大邸宅で暮らしながらも 空虚な日々に苦悶するカルラ役を好演。イタリアのアカデミー賞と言われている ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を始め、数々の主演女優賞を受賞しました。
しかし、とても驚かされたのは、セレーナ役の M・ジョリ ( 1989年生まれ、本作がデビュー作 ) の存在感。試写招待状の画像からは予測できなかったほど 魅力的な眼・美しい唇と歯の持ち主で、場面によって 変化に富んだ 非常に印象的な表情を見せています。女優として大成するコトは ほゞ確実、要注目の新人です。

37 歳で この世を去った天才作家と、
彼を世に送り出したカリスマ編集者。
傷ひとつ残らないなら、
真の友情とは言えない。
ベストセラー / 編集者パーキンズに捧ぐ
イギリス/104分
10.7 公開/配給:ロングライド
BEST-SELLER.JP
【 STORY 】 ヘミングウェイ、フィッツジェラルドなど 数々の世界的作家を見出した 名編集者 パーキンズ。ある日、彼の元に、無名の若手作家 トマス・ウルフの原稿が持ち込まれる。一目で彼の才能を見抜いたパーキンズは、編集者として、そして 最高の友として 彼を支え、処女作「 天使よ 故郷を見よ 」をベストセラーへと導く。しかし 成功の喜びも束の間、作家として自立を求めるウルフとパーキンズの関係には 次第に影が差し、さらなる苛酷な運命が 二人を待ち受ける。 ( 試写招待状より。一部省略 )
米国文学史に残る ベストセラーの誕生に隠された、実在の名編集者と若き天才作家の 友情と闘いを描く 感動の実話。原作は、A・スコット・バーグの評伝「 名編集者パーキンズ 」( 日本では、草思社から翻訳本が刊行されている ) 。
この映画化を最初に決めた脚本家 ジョン・ローガンは「 成功への苦闘と、その成功が 人をどう変えていくのかに魅力を感じ、この物語を伝えなければという 純粋な使命感が沸いた 」と述べています。監督は、演劇界で名高い マイケル・グランデージ ( 映画監督 第一作 ) 。
注目に価するのは キャスティング。パーキンズ役に コリン・ファース、ウルフ役に ジュード・ロウという 二大スター俳優の初共演 ( 共に適役を好演 ) 。ふたりの関係に嫉妬の炎を焼やす、ウルフの愛人でパトロンでもあるアリーン役に ニコール・キッドマン。加えて、パーキンズの妻役に ローラ・リニー、F・S・フィッツジェラルド役に ガイ・ピアース、E・ヘミングウェイ役に ドミニク・ウェストという錚々たる顔振れ。
時代背景は、ウォール街の株価の大暴落で、突如〝 狂乱の 20 年代 〟の終焉を迎えた 1929 年から、世界が 第二次大戦へと向かい始める ’38 年までの 10 年間。舞台は 言うまでもなく、ニューヨーク。
本作は、物語の時代のイメージを巧みに再現すると同時に、時代が変わっても 変わるコトのない 人間の信頼関係の機微を、じっくりと描き出しています。その内容やスターヴァリューから考えて、知的な大人の映画ファンに 強烈にアピールする作品であるコトは、間違いありません。
たゞ、多少 物足りなく感じられたのは、パーキンズの家庭内の描写 ( 重要性に乏しく、また 演技は巧みながら L・リニーの「 ミスキャストでは? 」とも思わせる雰囲気 ) 、及び アリーンの芝居がかった気質を演ずる N・キッドマンから、滲み出るような苦悩が 十分には 伝わってこなかった点です。
以下、主要な三人のハイライトシーン。
ウルフ ―― 「 大げさに、大声で、非現実的なコトを しゃべりまくる人物だ! 」と自己評価する場面 ( 客観的に自己分析をしていながら、それを繰り返す場面を含めて ) 。彼が最もハンサムに見えたのは、パーキンズのオフィスへ原稿を持ち込む、冒頭の舗道のシーン。その思いつめた表情。
アリーン ―― 中盤、パーキンズのオフィスに 突然 現われた彼女が「 私は削除されたの、彼 ( ウルフ ) の人生から。残るのは虚しさだけ。生きる気力もないわ 」と言い放ち、あるモノを取り出す場面。本心には違いないのでしょうが、舞台女優が発する 劇的な台詞のようにも聞こえる。また、高級クラブの場面で、ウルフのファンと名乗るハイソサイエティ風の美女の言動に 目を釣り上げる、キッドマンならではの顔。
パーキンズ ―― 、後半、フィッツジェラルド夫妻に 大声で暴言を吐くウルフを 外へ連れ出した彼が「 君の残酷さには 今更だが呆れた、今回ばかりは許せない 」と激怒する場面。こゝでは、映画的効果のためにも、ウルフを欧りつけてほしかった。そんな行動には出そうもない、C・ファースが 演じているから こそです。彼は、役柄のせいかも知れませんが、頬の張力の衰えが目立っています。ファンのひとりとしては、近く公開予定の『 ブリジット・ジョーンズの日記 』での彼が とても気がかり。

故 ルー・リードの妻であり、音楽家の ローリー・アンダーソン監督が贈る、
「 愛と死 」にまつわる シネマ的エッセイ。
ハート・オブ・ドッグ 〜犬が教えてくれた人生の練習〜
アメリカ/76分
10.22公開/配給:テレビマンユニオン
dog-piano.jp
【 INTRODUCTION 】 NYのアートシーンで 70 年代から活躍し続ける音楽家 ローリー・アンダーソン。本作は 彼女と夫 ルー・リードが飼っていた 愛犬 ロラベルとの日々を通して「 愛と死 」「 アメリカの今 」を綴った シネマ的エッセイ。幼い日の記憶、他愛のないビデオ日記、母への複雑な感情、愛する人との別れや思い出の断片が、過去と現在、現実と空想を超えたコラージュのように描かれます。 ( プレスブックより、抜粋 )
全篇にわたって 愛犬 ロラベルが登場するドキュメンタリーを想像して観たのですが、そうでは ありませんでした。これは ロラベルも登場する、L・アンダーソンのモノローグであり、彼女自身の人生哲学本といった感じの〝 シネマ的エッセイ 〟。しかし ロラベルは、実際に両前足で ピアノの鍵盤を叩くのが大好き。しかも 失明した後に覚えた遊び とのコトで、ちょっとビックリさせられました。
画面は 斜めや横に、故意にスクラッチが施されています ( 古い映画のプリントの、雨が降っているように見える傷とは異なります ) 。
9.11 の話も出てくる内容で、繊細であると同時に、アーティストらしいナルシシズムをも感じさせる作風。題名を度忘れしましたが、ブラッド・ピットと ジェシカ・チャステインが夫婦役で共演した 神がかった 映画に 相通ずるタッチも見え隠れ……。米国の映画批評サイト Rotten Tomatoで、批評家の満足度 97 %を記録、ニューヨークタイムズ紙の 2015年 ベスト 10 にも選出された作品です。

たちきれぬ 過去の想い。
それでも 惹かれ合う 男と女。
フランスが誇るラブストーリーの名作、
デジタル・リマスター版で甦る!
男と女
フランス/104分
10.15 再公開/配給:ドマ、ハピネット
otokotoonna2016.com
【 STORY 】 パリで 一人暮らしをするアンヌと カーレーサーのジャンは、ドーヴィルにある同じ寄宿舎に 娘と息子を預けていることから 知りあい 惹かれあった。が、いまだ 辛い過去を忘れられない二人は……。 ( チラシより )
♪ ダ~バダ ダバダバダ〜 ♪の主題曲で知られる クロード・ルルーシュ監督の不滅の名作『 男と女 』が、50 年の時を超えてリバイバル。と言っても、デジタル・リマスター版による公開は 今回が初めてです。
〝 男 〟を演ずるのは、名優 ジャン=ルイ・トランティニャン ( 通信 355『 アスファルト 』でデビューした ジュール・ベンシェトリは、彼の孫 )。〝 女 〟を演ずるのは、美しさの絶頂期にあった アヌーク・エーメ。音楽は フランシス・レイ。
流麗なカメラワーク、カラーとモノクロームを使い分けた大胆なモンタージュ。たしか 台詞は とても少なく、音楽と映像がシンクロする ポエティックな作品で、初公開時に高校三年生だった僕は「 今までにない作りの映画だなぁ 」「 フランス人って、こんな愛しかたをするのか……、こんな人生観を持って生きていくのか…… 」などと感じたコトを、よく憶えています。観たのは ザ・ビートルズの『 HELP ! 』と同じ 小田原のオリオン座で、主役ふたりの人生に 愛おしさと切なさを感じたコトも 忘れられません。
そして また、A・エーメの 風に揺れる髪、コート姿、タクシーを止める体の動き、タバコに火をつける仕草 etc、そのエレガンスには 見とれたモノでした。
今回、試写は 一度だけ 行われましたが、あいにくスケジュールの都合で 僕は NG に……。50 年を経て甦った映画、今の僕の眼には どう映るのか、恵比寿ガーデンプレイスまで 確かめに行ってきます。
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