スキンケアニュース
2025.8.16

「肌質」は遺伝する? ガチャに失敗したら美肌になれないの? 科学で徹底解説|サイエンスライター 島田祥輔さん特別寄稿

その悩み、「肌質」で諦めない! サイエンスライター島田祥輔さんが科学で徹底解説!

Profile
サイエンスライター 島田祥輔さん
遺伝子に詳しく、正確性を重視。著書に『遺伝子「超」入門』(パンダ・パブリッシング)、『遺伝子の不思議としくみ入門』(朝日新聞出版)などがある。

肌質は本当にガチャなのか? 科学で徹底解説!

01:肌質ガチャに失敗したら美肌になれないの?

「肌質ガチャに失敗した」「肌質ガチャでSSR引きたい人生だった」……こんな声がSNSでは飛び交っています。

自分で選べず、運任せになってしまうことがガチャ。親ガチャ、配属ガチャ、上司ガチャなど、私たちは人生のいろいろな場面でガチャを回しています。肌質ガチャは、生まれた瞬間に回すガチャのひとつで、肌質は遺伝で決まっていて生涯変えられないものというイメージがあるようです。

本当に肌質はガチャ、つまり遺伝するのでしょうか? 結論からいうと、肌質は遺伝します!でも諦めないでください!大切なことは、「肌質はある程度は遺伝するけれど肌状態は遺伝だけで決まらない」「日々のスキンケアで肌状態は変わる」ということです。

02:遺伝するのは「なる・ならない」ではなく「なりやすさ・なりにくさ」

例えば、シミと肌あれのしやすさ。日本人を調べたメナードの研究※1では、シミのできやすさと肌あれのしやすさには遺伝的な個人差が関わっていることが見つかりました。ほかにも、イギリスの研究※2では、両親や兄弟で大人ニキビがあると、自分も大人ニキビになる確率はほかの人よりも3.93倍も高くなるというデータがあります。

やっぱり肌質は遺伝するのか……でも、こうした研究の裏を読み解くと、希望が見えてきます。親にシミが多い、肌あれがひどい、大人ニキビがあっても、子供も100%そうなるという研究はほとんどないのです。どうしてかというと、肌質はたったひとつの遺伝子で決まるものではなく、恐らく数十や数百、もしかしたらそれ以上の遺伝要因が関わっているから。両親から「なりやすさ、なりにくさ」に関するいろいろな遺伝要因を受け継いでいるから、「親がこうだから自分も必ずこうなる」とは言い切れないわけです。

もうひとつのポイントは、親と同居して不規則な生活リズムや偏った食事を家族全員でとっていると、同じ肌トラブルが親子で起きるのは当然ということ。遺伝のせいにせず、自分にできる生活習慣の見直しをするだけでも、肌が美しくなる可能性が大いにあります

03:肌質が同じ双子でも肌状態が違うことが判明!

肌質ガチャで決まった肌は絶対に変わらないのか? そんなことはありません。生まれた後でも、食事や睡眠、運動、スキンケアなどによって肌状態が変わることがわかっています。

資生堂と大阪大学の共同研究※3では、一卵性双生児の肌状態を調べています。一卵性双生児とは、1個だった受精卵が最初の分裂で完全に2個に分離して、それぞれから赤ちゃんができたものです。一卵性双生児の最大の特徴は、同じ遺伝子をもっていること。もし、一卵性双生児で違うところが見つかれば、それは遺伝だけですべてが決まらないことの証拠となります。
肌の弾力は皮膚の毛細血管と関係します。そこで、皮膚の毛細血管の密度を調べると、一卵性双生児のペアでも違いがあることが判明。さらに、毛細血管が多い程肌内部のコラーゲン密度が高いこともわかりました。つまり、年齢や遺伝的に「肌質」が同じだったとしても、肌の弾力という「肌状態」は変わるということ!

この研究では、具体的にどんな生活習慣が肌状態と関係しているのかまでは調べていませんが、ストレス管理や日々のスキンケアによって肌質に関係なく肌状態を良くできるという希望が見えてきますね。

04:肌あれのしやすさは遺伝するけど保湿ケアで美肌になれる!

生まれつき肌が弱い、肌あれしやすいという人は、肌のバリア機能が遺伝的に弱いのかもしれません。肌のバリア機能とは、皮膚内部に水分をためておくことで外部からの刺激を防ぐこと。肌が乾燥してバリア機能が弱くなると、肌あれや紫外線による炎症が起きやすくなります。

肌の乾燥のしやすさは経表皮水分蒸散量という数値で評価しますが、この数値は遺伝的に関係することがわかっています。紫外線量の多いアフリカや沖縄では経表皮水分蒸散量が少ない、つまり肌のバリア機能が高めの遺伝的背景をもつ人が多いこともわかっています※4。

遺伝的に肌が乾燥しやすいという人は、保湿剤を使って積極的に肌の保湿を心掛けると肌トラブルが起きにくくなり、美肌への道が見えてきます。ちなみに私も、冬は肌の乾燥がひどくなって寝ているときにかきむしってしまう程なので、お風呂上がりにボディローションで保湿をしています。乾燥肌は紫外線にも弱い体質なので、日焼け止めや日傘もしっかりと!

05:筋トレをするだけで肌の弾力が増えるかも

美肌といえばスキンケアと考えがちですが、実は運動も美肌につながるかも。ポーラと立命館大学との共同研究※5では、有酸素運動または筋トレを週に2回、4か月間やると、皮膚の弾力が改善したとのこと。特に筋トレは、炎症を引き起こす血中成分が減り、真皮の厚みが増して引き締まった若々しい見た目になるようです。この研究は40代から50代の女性を対象にしたものですが、若いときから運動をすることに越したことはありません。まさに、筋肉は裏切らない!

06:地黒でもキメが細かいと美しく見える!

地黒こそスキンケアでどうしようもなく、美肌から程遠い…そう思われるかもしれません。確かに、東北大学の研究によると、肌の色は複数の遺伝子の個人差が関係し、その中にはメラニンの合成や輸送に関わっていることがわかっていて、遺伝要因はかなり強そうです※6。

しかし、地黒は美肌になれないかというと、そんなことはありません。黒色人種の方で肌がキレイに見える人はたくさんいますよね。そもそも、美肌とはなんなのでしょうか?
何をもって美しいと感じるかは人それぞれですが、肌に関しては「キメが細かく整っている」ことが美しさのひとつ。キメが細かいと光が反射しやすく、その輝きに美しさを感じるようです。皮膚の表面には細かい凹凸があり、規則的にキレイな3角形ができる状態を「キメが細かい肌」といいます

資生堂の研究※7では、エアコンの利いた部屋に入るといった、急に乾燥した空間にさらされるとキメを作る角層細胞が縮み、キメが乱れて肌あれの原因になることがわかっています。こうした肌トラブルを防ぎ、キメの細かい肌を維持するには、肌の色に関係なく保湿といったスキンケアが重要。地黒で悩んでいても肌を美しくすることはできます!

ちなみに、地黒になる理由は、肌から紫外線を守るメラニンという成分が多いためで、これが「地黒はシミになりにくい」といわれている理由です。もちろん、絶対シミにならないというわけではなく、大量の紫外線を浴びればシミができます。ポーラの研究※8では、メラニン生成に関わるMC1Rという遺伝子の個人差によってはシミができやすいとのこと。どんな肌でも紫外線対策は抜かりなく

【Column】遺伝と体質の個人差って?

生き物の細胞の中にはDNAがあり、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種類の塩基という物質が並んでできています。人間にはこの塩基が30億個並んでいて、一部の場所ではAの人もいればGの人もいるなど個人差があります。この個人差によって左右されるものが体質と呼ばれています。お酒が飲めるかどうか、朝型か夜型か、パクチーの好き嫌いも遺伝要因の影響を受けることがわかっています。

最近では、遺伝子にもスイッチのオン・オフのようなものがあり、生活習慣によってオン・オフが簡単に切り替わることがわかりつつあります。つまり、遺伝子は変えられないけれど、遺伝子
の使い方は変えられるということ。生活習慣を改善してオン・オフをうまく切り替えれば、肌質は変えられなくても肌状態は変えられると考えられています。

【まとめ】

  • 肌質は遺伝によって決まるのは間違いなし!
  • 肌質は変えられなくても肌状態は変えられる!
  • 肌状態を遺伝のせいにするのではなく、 まずは生活習慣を見直して、自分に合ったスキンケアを!

※1 日本メナード化粧品(株) 総合研究所『Search for genetic loci involved in the constitution andskin type of a Japanese women using a genome-wide association study』 ※2 The familial risk of adult acne: a comparison between first-degree relatives of affected and unaffected individuals(1999年OXFORD ACADEMIC) ※3 ふたご研究から、スキンケアを含む生活習慣などが美肌の鍵である毛細血管に与える影響を発見(’24年資生堂、大阪大学ツインリサーチセンター) ※4 ユーグレナ・マイヘルスとジーンクエストの遺伝子解析サービスのゲノムデータをもとに、肌の保水力の指標の1つである経表皮水分蒸散量に関わる遺伝子項目を解析(’22年ユーグレナ社) ※5 筋力トレーニングが美肌に貢献することを世界で初めて報告 ~筋力トレーニングによる血中成分の変化が皮膚老化の改善に関与することを解明~(’23年立命館大学、ポーラ化成工業) ※6「 Susceptibility Loci for Tanning Ability in the Japanese Population Identified by a Genome-Wide Association Study from the Tohoku Medical Megabank Project Cohort Study」(J Invest Dermatol.Jul;139(7):1605-1608. 2019年) ※7 乾燥によるキメの大きな乱れが皮膚の角層細胞の縮みによるものであることを発見(2013年資生堂) ※8「Effect of Val92Met and Arg163Gln variants of the MC1R gene on freckles and solar lentigines in Japanese(日本人におけるシミ型遺伝子の発見)」(Pigment Cell Res. 20(2):140-3. ’07年)、「Polymorphism Patterns in the Promoter Region of the MC1R Gene Are Associated with Development of Freckles and Solar Lentigines(日本人のシミ型遺伝子の特徴)」(J Invest Dermatol. 128(6):1588-91. ’08年)

『美的』2025年9月号掲載
構成/村花杏子

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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