大高博幸さんの 肌・心 塾
2012.4.2

大高博幸の美的.com通信(95) 愛すべき傑作、『アーティスト』 試写室便りNo.24

© La Petite Reine-Studio 37-La Classe Americaine-JD Pr

1920年代のハリウッドを舞台に、
白黒&サイレントで描き上げる
甘く切ない、大人のためのラブストーリー。
『アーティスト』 (原題=The Artist)
4月7日から全国順次公開。
詳しくは、artist.gaga.ne.jpへ。

すべての観客をひとり残らず幸福な気持ちにしてくれる、ビター&スイートなラブロマンス。アカデミー賞を主要5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・衣装デザイン賞・作曲賞)で受賞したこの映画は、ポスターやメインスティルが想像させる以上にテイストとチャームに満ち溢れています。サウンドはモチロン付いていますが、セリフ(声)は全篇にわたって1つもありません(この映画の中にはトーキー映画の撮影現場やトーキーの部分試写の場面も出てきますが、そこでも声はナシのまま。セリフは字幕で表れます)。まず、その点にビックリしてしまう人が多いでしょうが、余程偏屈な性格でない限り、すんなりと抵抗感なく映画に入っていけるはずです。

物語の舞台は1927年から’30年代初めまでのハリウッド。映画産業はサイレント(無声)映画からトーキー(発声)映画への大きな転換期にあり、その間に1929年の歴史的な経済恐慌をはさんでいます。
第1主役はサイレント映画の大スター、「サイレントこそは芸術、自分はそのアーティスト」という誇りを抱くジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)。第2主役は踊りが達者なエキストラガールのペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)。
この二人の“なれそめ”が1巻めにあり、間もなくジョージはトーキーへの出演を断固拒否したためスターの座から転落、逆にペピーはジョージの励ましを心の支えとしてスターダムへと駆け上っていきます。プロット(劇筋)は少しも複雑ではありませんが、行き違いなどが幾つかあって…、ただし、それは観てのお楽しみに!

主役二人のキャラクターと演技がとても良かったのですが、僕自身が特に惹かれたのは脇役のクリフトンさんでした。
以下、非常に個人的な感想を述べるコトになりますが、このクリフトンさんはジョージが最も気を許している“お抱え運転手”。1927年の場面では、ポートレートへのサインの代筆を1枚1枚丁寧に誇らし気にしていました。しかし、ジョージは1929年に破算して貧乏暮らしを余儀なくされ、クリフトンさんは既に1年間も給料を貰えないままでいます。にもかかわらず、かいがいしく幸せそうにジョージの食事の用意などしているのです。そんな彼に向かって、ジョージは突然「君はクビだ」と解雇を宣告。クリフトンさんは思いもよらない言葉に驚いて「おそばへ置いてください」と懇願しますが、ジョージは「車をやるから仕事を捜せ!」と言い放って彼を追い出します。クリフトンさんは、しばらくの間、呆然と車の傍らに佇んでいる…。その姿を、ジョージはカーテン越しにそっと見る…。この一連の場面で、僕は大粒の涙をポロポロこぼしました。クリフトンさんの献身と一途な忠誠心に、そして心を鬼にしなければならなかったジョージの立場と人情に…。
その後(ずーっと後の場面で)、ジョージの許へ再び現れたクリフトンさんはペピーのお抱え運転手になっていて、彼女から預ってきた“あるモノ”をジョージに手渡します。そして静かに言うのです。「昔の誇りはお捨てになってください。それにミラー様は、真実善良なお方ですよ」と。ここでまた、僕の涙腺は緩みました。そして、クリフトンさんのような人間が、2012年の今日にも存在しているはずだと感じさせられたと同時に、自分も彼のような人間に少しでもなりたいと心から思ったのでした。
クリフトンさん役を演じたジェームズ・クロムウェル氏(スリムで長身、71歳ぐらい)に、僕は最優秀助演男優賞を贈りたい。その抑えた表情と全身に漂わせた雰囲気が何とも言えないほど魅力的で、とてもとても素晴らしかったからです。

以下、またまた余談ですが…、
ジョージのキャラクターがダグラス・フェアバンクスをモデルにしているコトは明らかですが、やはりジョン・ギルバートという有名なラテン・ラヴァーの影を感じさせます。
ペピー・ミラーのキャラは、グレタ・ガルボというよりは、ジョーン・クロフォードにパッシイ・ルス・ミラーが少し混ざっている感じ。もっとも、映画の後半でペピーが車を木にブツけてしまう場面では、『恋多き女』でのガルボを一瞬思い出させはしましたが。
他に、エキストラ係の若い助監督さんの口元が当時の男優ジョージ・オブライエンにそっくり、ペピーをインタビューする中年のレポーターさんの耳が当時の映倫担当者ウィル・ヘイズにそっくりだったコトなどなど、サイレント映画を愛する人間にとってはオマケ付きのようで、とてもとても楽しかったです。
もう1人(?)、ジョージの愛犬役アギーの可愛らしさ&うまさと言ったら!! こんな演技のできる犬が、1920年代ではなく、現代にもいるというコトにも驚かされました。彼は本作で第64回カンヌ映画祭パルムドッグ賞に輝いています。
これからの話ですが、ミシェル・アザナヴィシウス監督の作品、ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジェームズ・クロムウェル、そしてアギーが出演している新作が日本に来たら、僕は必ず観に行きます。試写招待状が届かなければ、劇場へ足を運びます。皆さん、これからも良いお仕事をなさってください!!

P.S. 上映時間は101分です。僕は劇場で、もう1回観てきます

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