大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.5.1

『 オー・ルーシー! 』『 アイ,トーニャ 』『 四月の永い夢 』 試写室便り 【 大高博幸さんの 肌・心塾 Vol.445 】

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(c) Oh Lucy,LLC

ハロー・ルーシー! レッツ・ハグ!
節子の愛されたい強い気持ちは、
あらゆる境界を突き抜ける!

オー・ルーシー!
日本、アメリカ/ 95 分/ R 15+
4.28 より公開中/配給:ファントム・フィルム
oh-lucy.com

【 STORY 】 川島節子 43 歳、独身。職場では空気のような存在、一人暮らしの部屋は物だらけ。そんな節子の毎日は、怪しげな英会話教室で金髪のウィッグをかぶり〝 ルーシー 〟になった瞬間、色鮮やかに一変する。「 ヘイ! マイ・ネイム・イズ・ルーシー! 」「 ワッツ・アップ? 」〝 ルーシー 〟によって自分の中に眠っていた感情を呼び起こされた節子は ハグしてくれたイケメン講師 ジョンの愛を求め、東京から 一路 カリフォルニアへ! 旅の果てに節子が見つけた〝 人生の可能性 〟とは――。( プレス資料より )

何でもない日常的な朝の光景が、奇妙 or 異様な雰囲気を伴って映し出される冒頭のシーンから、観る者を最後まで引きつけてやまない 95 分。一部を除いてテンポよく、一部を除いて予想のつかない展開が興味をそゝる、一種のヒューマンブラックコメディ。
主人公の節子 ( 寺島しのぶ ) は、自分を圧し殺して生きている 43 歳の会社員。誰かを愛したり愛されたりするのが苦手らしく、実の姉 ( 南 果歩 ) とも 会社の上司・同僚・後輩たちとも うまく折り合えない性格。たゞし 根が正直でピュアなので、「 そんなコトしたり言ったりして大丈夫かな? 」と観る者を心配させるようなところがある…。そんな節子役の寺島しのぶの演技が、本作を愛すべき一篇にしています。

実は 僕は今まで、「 寺島しのぶという女優には〝 適役を好演 〟なんて言える役が果たしてあるのだろうか? 僕が観てきた限り、ほとんど いつも 感情を故意に消した バスター・キートン風の顔で登場してくるけれど、それを絶賛する方々って 余程 想像力が豊かで、勝手に奥深い心理を感じ取っているだけでは? 」などと、生意気でしょうが 思っていました。それが 本作では 非常に うまく生かされていて、たとえば マンツーマンの英会話講師のジョン ( ジョシュ・ハートネット ) から、ほとんど強制的に金髪のウィッグを被せられたり、初対面の英会話教室の生徒のひとり ( 役所広司 ) と突然レッスンを させられたりする辺りでの ノリの悪さ・たじろぎ モタつく態度 etc にピッタリとしているのです。さらに 急に姿を消したジョンを追って カリフォルニアへ向かう辺りから、ブラッシャーを入れた頬に生気と立体感がプラスされて テンションが舞い上がる感じも、相当 面白く表現されています。

この、投げやりにならざるを得なかった自分の人生の可能性に気づき、不器用ながら それに向かって遭進して行く節子 = ルーシーの姿は、多くの女性観客に強い共感を与えるでしょう。いろいろあって 一筋縄では いかないものの、暴走に次ぐ暴走の果てに 節子を待っていた〝 幸せを掴めそうな結末 〟には、誰もが とにかく ひとまずは、ホッとさせられるに違いありません。

『 ブラック・ダリア 』( ’06 ) 以来 久々に観た J・ハートネットは、役に対する解釈に誠意が感じられる好演を観せ、映画界に復帰してくれたコトを 僕は 嬉しく思いました。
役所広司は 出番は少ないながら、要所を締めるだけの存在感で勝負。彼のキャリアから来るイメージが 十分に生かされていて、説得力に満ちています。

監督は、これが長編第一作となる平栁敦子。映画作家として 並外れた素養の持ち主だと感じました。
本作は、節子と相通ずる感覚を抱いている方々、そんな感覚を 払い落としたくても払えずにいるという方々に、特にオススメです。

 

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© 2017 AI Film Entertainment LLC.

フィギュアスケート界を揺るがした
史上最大のスキャンダル――。
オリンピック出場権を巡る、
ライバル襲撃事件の真相!

アイ,トーニャ
史上最大のスキャンダル
アメリカ/ 120 分/ PG 12
5.4 公開/配給:博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
tonya-movie.jp

【 STORY 】 貧しい家庭で、幼いころから暴力と罵倒の中で育てられた トーニャ・ハーディング。天性の才能と努力で アメリカ人初のトリプルアクセルを成功させ、92 年 アルベールビル、94 年 リレハンメルと 二度のオリンピック代表選手となった。しかし、彼女の夫だったジェフの友人が トーニャのライバルである ナンシー・ケリガンを襲撃したことで、スケート人生は一変。転落が始まる。一度は栄光を掴み、アメリカ中から大きな期待を寄せられたトーニャだったが、その後、彼女を待ち受けていたのは…。( プレス資料より。一部省略 )

’94 年 1 月 6 日、リレハンメル・オリンピックの代表選考会となる 全米選手権会場で起きた「 ナンシー・ケリガン襲撃事件 」( 優勝候補とされていた N・ケリガンが、何者かに 右ヒザを殴打されて負傷、欠場を余儀なくされた事件。その日、優勝したのはトーニャだったが、事件発生から 2 週間後に トーニャの夫 ( 当時 ) らが犯人として逮捕され、トーニャも関与を疑われた ) を中心に、トーニャの生い立ちから 彼女を取り巻く特殊な人間関係、前代未聞の「 靴紐事件 」等々を描いたトゥルーストーリー。多くの関係者に綿密なインタビューを行った上での映画化です。

事件発生当時、TVのニュース等で知って「 トーニャの卑劣な仕業 」と短絡的に解釈した人が大多数だったと記憶していますが ( 僕も そのひとり ) 、実際は そうとは言えない・そうではなかったという事実を暴いて、本作は とても衝撃的。アカデミー賞Ⓡ 主演女優賞・助演女優賞・編集賞の 3 部門にノミネートもされ、今年の話題作のひとつとなっています。

全体的にシリアスな展開でいて、型破りなジョークを交じえるという構成が 非常にユニーク。トリプルアクセルのシーンは、なんと代役を使わず、トーニャ役の マーゴット・ロビーの演技を「 視覚効果で処理した 」とのコトでしたが、不自然さが少しもなく、まるで実写映像を観ている感じ…。その映像処理技術の高さには 本当に驚かされました。
僕が一番ドキドキしたのは、「 靴紐事件 」発生 直前・直後の場面。そして最も印象的だったのは、「 N・ケリガン襲撃事件 」の裁判で、裁判官から スケート人生を断たれる判決が下された瞬間の トーニャの激しい反応でした。それは 彼女にとって、死刑の宣告にも等しかったのです。

トーニャ役の M・ロビーは、アスリートらしい体型と、かつての人気女優 ジャネット・リー ( ’49 年版の『 若草物語 』『 魔術の恋 』『 サイコ 』等に出演 ) を想い出させる美貌の持ち主。前述の主演女優賞は逸したものの、役になりきった演技が素晴らしい ( チラシの画像の彼女は ふてぶてしく見えますが、映像では そんな感じでは ありませんでした ) 。
トーニャのエキセントリックな母親役を演じた アリソン・ジャネイ ( 『 めぐりあう時間たち 』『 ヘルプ~心がつなぐストーリー~ 』等に出演 ) は、その強烈な演技によって 見事 助演女優賞を獲得しています。
監督は『 ザ・ブリザード 』の クレイグ・ギレスピー。

 

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(c)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema

春にして死を夢みたあなたが、
ずっと嫌いでした。

亡き恋人から届いた一通の手紙。
私の〝 時 〟が、動き始める。

四月の永い夢
日本/ 93 分
5.12 公開/配給:ギャガ・プラス
tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/

【 STORY 】 3 年前に恋人を亡くした 27 歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出す。元教え子と遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白。そして心の奥の小さな秘密。喪失感から緩やかに解放されていく初海の日々――。( 試写招待状より。一部省略 )

モスクワ国際映画祭で、国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰のダブル受賞を果たした作品です。監督・脚本は、前作『 走れ、絶望に追いつかれない速さで 』が高く評価された中川龍太郎 ( 平成 2 年生まれ ) 。
主要な配役は、初海役に 朝倉あき、染物工場で働く青年・志熊に 三浦貴大、亡くなった初海の元恋人・憲太郎の両親に 志賀廣太郎と高橋惠子。

台詞 ( 台本 ) が やゝ生硬では? と個人的に感じた部分が 全篇中に数ヵ所ありましたが、印象的だったのは ラスト近く、憲太郎の両親が暮らす富山を訪れた初海に、憲太郎の母・沓子 ( 高橋惠子 ) が言う台詞…、「 初海ちゃんは まだ若いから、人生とは 何かを獲得していくことだと思っているかもしれないけれど、本当は 人生って 失っていくことなんじゃないかなって、私は 思うようになったの…。その失い続ける中で、その度に 本当の自分を発見していくんじゃないかって、私、思うようになったのよ 」でした ( 実際は、もう少し長い台詞だった気がします ) 。

出演者で適役と感じたのは、朴訥さの中に誠実味が強く表われている三浦貴大 ( 大人の俳優として成長している印象 ) 。そして 高橋惠子と志賀廣太郎の 夫婦の絆を感じさせる演技。さらに、初海のアルバイト先である 蕎麦屋の店主役・森次晃嗣の 黙々とした姿が発する真実味。
場面としては、蕎麦屋の厨房、染物工場で親方が仕事をしているカット、暖かそうに陽が当たっている憲太郎の家の全景など。採光と照明に、繊細な工夫が成されているようで、僕は何度か目を見張りました。撮影は 平野 礼、照明は 稲葉俊充。

 

 

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biteki-m@shogakukan.co.jp
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ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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