『 バジュランギおじさんと、小さな迷子 』『 喜望峰の風に乗せて 』『 未来を乗り換えた男 』『 ホイットニー 』試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.482 】
全世界を笑いと涙に包んで大ヒット!
ふたりなら、どんな壁でも越えられる!
バジュランギおじさんと、小さな迷子
インド/ 159 分
1.18 公開/配給:SPACEBOX
Bajrangi.jp
【 STORY 】 パキスタンの小さな村に住む女の子 シャヒーダー。幼い頃から声が出せない彼女を心配したお母さんと一緒に インドまで願掛けに行くが、帰り道で ひとり取り残されてしまう。そんなシャヒーダーが出会ったのは、ヒンドゥー教のハヌマーン神の熱烈な信者 パワンだった。
父の友人の家に居候しながら、愛するラスィカーとの結婚を夢見て 日夜 奮闘するパワンは、底抜けの正直者で お人好し。これもハヌマーン神の思し召しと シャヒーダーを預かることにしたが、声の出せないシャヒーダーが どこに住んでいたのか さっぱり分からないまま、楽しい日々が 過ぎていく。
そんな ある日、ひょんなことから 彼女が パキスタンのイスラム教徒と分かって驚愕するパワン。歴史、宗教、経済など 様々な部分で激しく対立するインドとパキスタン。厳格な彼女のお父さんから「 すぐに故郷に帰せ! 」と一喝されて、一度は旅行代理店にシャヒーダーを預けてみたものの、売春宿に売り飛ばされそうになってしまう。
遂に パワンは、パスポートもビザもなしに、国境を越えて シャヒーダーを家に送り届けることを決意した。インド人のパワンにとって、パキスタンは近くて遠い国。国境では警備隊に捕まり、パキスタン国内ではスパイに間違われて警察に追われる 波乱万丈の二人旅。
果たしてパワンは シャヒーダーを母親の元へ 無事に送り届けることができるのか? そこには、思いも よらなかった奇跡が 待っていた…。( プレス資料より。一部省略 )
元日の第 1 発めに御紹介するのが ボリウッド映画!? 自分でも予想外のコトですが、これは笑って泣けるだけではない、率直なメッセージを明確に持つ、とても気持ちの良い感動作でした。Rotten Tomatoes では 驚異の満足度 100 % をマーク。本国での公開から 3 年を経た今でも、インド映画の世界興行成績 歴代 第 3 位の座をキープしているという大ヒット作で、日本公開の遅れたコトが、不思議に思えるほどです。
「 バカがつく正直者 」で お人好しなインド人青年 ( パワン、愛称:バジュランギ ) と 迷子のパキスタン人少女 ( シャヒーダー、呼称:ムンニ ) の旅を通じて、人間愛に関するメッセージを、愉快な笑い、しっとりとしたロマンス、ハラハラさせるスリルと共に描き、国籍や 宗教・信条の違いを超えて、多くの人々の熱い共感を呼ぶところが 本作の最大の魅力。インドとパキスタンの対立の歴史や政治家たちは いっさい登場させず、あくまでも双方の一般人の感覚で押し通している脚本と演出 ( カビール・カーン ) が、大衆に愛され支持された第 1 のポイントと言えるでしょう。少くとも 本作を観た両国の人々は、「 お互いに、もっと仲よくしたい 」と、心の底で感じたはずです。
青年役は、ボリウッド映画のドル箱スター、サルマン・カーン。少女役は、撮影当時 6 歳だった ハルシャーリー・マルホートラ。青年の恋人 ラスィカー役は カリーナ・カプール ( 磨き上げたような美肌の持ち主。顔は四角ばっていますが、心は丸い ) 。そして、仕事そっちのけで 青年と少女の味方になる パキスタンの T V リポーター、ナワーブ役の ナワーズッディーン・シッディーキーら、全員が好演。ナワーブが T V の視聴者に向けて語りかける言葉に、観客へのメッセージが そのまゝ端的に表れている点も、とてもとても良かったです。
上映時間は 159 分。ボリウッド映画のフォーマットとして、お祭り騒ぎ・歌えや踊れのシーンは何度か延々と出てきます。しかし、その演出がスマートな上、それに溺れていない点が 花マルでした。結末は「 想像どうり 」といったところですが、それでも どうなるのかが 気掛かりで、画面に観入ってしまいます。
P.S. 1 青年の恋人 ラスィカーは、何事にも優先順位をつけるのが上手な性格。それに限らず、日本の女性にとって、見習うべき点が とても多い 素晴らしい女性です ( コールラインによる強いアイメイクや 磨き上げスキンケアのコト以上に ) 。
P.S. 2 映画が始まる前には、必ずトイレへ。お祭り騒ぎのシーンの間にも 物語は進行していくので、途中で席を立つなんて不可能ですよ。
家族の愛と小さな町の期待を胸に、
単独 無寄港 世界一周ヨットレースに挑戦した
アマチュアセーラーの海洋冒険ドラマ。
喜望峰の風にのせて
イギリス/ 101 分
1.11 公開/配給:キノフィルムズ
Kibouhou-movie.jp
【 STORY 】 1968 年、イギリス。ひとりぼっちで海に出て 一度も港に寄らず、世界一周を果たすという過酷なヨットレースが開催される。華々しい経歴のセーラーたちが参加する中、ビジネスマンの ドナルド・クローハーストが名乗りを上げる。アマチュアの果敢な挑戦にスポンサーも現れ、ドナルドは家族の愛を胸に出発する。だが、彼を待っていたのは、厳しい自然と耐え難い孤独、そして 予想もしなかった 自身の行動だった――。( 試写招待状より )
主演は『 英国王のスピーチ 』( 通信 47 ) の コリン・ファース、監督は『 博士と彼女のセオリー 』( 通信 278 ) の ジェームズ・マーシュ。ふたりが 初めてタッグを組んだ、ヒューマンな海洋冒険ドラマ。実話に基づく内容で、ドナルド役の C・ファースと、その妻 クレア役の レイチェル・ワイズの共演も、観賞欲をそゝります。
しかし この映画には、いまひとつ煮え切らない印象、不完全燃焼といった感を僕は受けました。
おそらく その第一の要因は、百戦錬磨のプロにとっても 過酷 極まるレースに、アマチュアの彼が〝 果敢 〟にというよりは〝 無謀 〟に挑戦したコトにありそう。そして 彼の挑戦の動機が、映画を観る限り ですが、多分に希薄だと感じさせてしまう点にも あるようです。また、レース開始の前夜、準備が不完全だと気づいた彼が、一度は棄権を考えたにも拘らず、一種の成り行きで そのまゝ出航してしまうところに、結果が 既に見えていたとも考えられるのです。比較するのは おかしい気もしますが、堀江謙一氏の実話を映画化した『 太平洋ひとりぼっち 』( ’63、石原裕次郎 主演、市川崑 監督作品 ) は、その点、充実した内容だったと 僕は改めて感じました。
とは言え、三人の子供と一緒にいる場面での C・ファースの姿、危険を承知の上で 夫の夢を尊重しようとする妻の気丈さには 一見の価値があり、脇を固める デヴィッド・シューリスと ケン・ストットの存在感も 相当に良かったです。妻役の R・ワイズは『 光をくれた人 』( Vol.393 ) では 役のせいもあって影が薄く感じられたのですが、本作では 生彩を取り戻していて、見とれるほど綺麗でした。
パリ―→ マルセイユ。
祖国を逃れ、他人の人生を手に入れた男。
退路も進路もない逃避行に、
終着点は あるのか――。
ドイツの名匠 C・ペッツォルトの異色作!
未来を乗り換えた男
ドイツ、フランス/ 102 分
1.12 公開/配給:アルバトロス・フィルム
transit-movie.com
【 STORY 】 現代のフランス。祖国ドイツで吹き荒れるファシズムを逃れてきた 青年 ゲオルクが、ドイツ軍に占領されようとしている パリを脱出し、南部の港町 マルセイユに たどり着いた。行き場をなくしたゲオルクは 偶然の成り行きで、パリのホテルで自殺した 亡命作家 ヴァイデルに成りすまし、船でメキシコへ発とうと思い立つ。そんなとき 一心不乱に人捜しをしている黒いコート姿の女性と めぐり合ったゲオルクは、美しくもミステリアスな彼女に心を奪われていく。しかし それは決して許されず、報われるはずのない恋だった。なぜなら、そのマリーという黒いコートの女性が捜索中の夫は、ゲオルクが成りすましているヴァイデルだったのだ……。( プレス資料より )
ベルリン国際映画祭 銀熊賞を筆頭に 10 賞を受賞した『 東ベルリンから来た女 』( 通信 131 ) と、サンセバスチャン国際映画祭 批評家連盟賞を含めて 17 賞を受賞した『 あの日のように抱きしめて 』( 通信 297 ) で、歴史に翻弄された人々の数奇な運命を描いてきたドイツの監督 クリスティアン・ペッツォルト ( ’60 年生まれ ) の最新作。ユダヤ人が ナチスの理不尽な迫害を受けた 第二次世界大戦中の悲劇と、祖国を追われた 難民の問題が 深刻化している現代の状況を〝 重ね合わせる 〟という、大胆な試みに挑戦した 野心的な作品となっています。
ふたつの時代を一体化させた展開には 異和感が少しもなく、僕は 何となく近未来的な印象を受けると同時に、白日夢を見ているような不思議な感覚を味わいました。たゞ、日本で公開された前二作で ペッツォルト作品のファンになった僕なのに、なぜか 今回は ゲオルクとマリーの心理を十分に感じ取るコトが出来なかったので、公開されたら もう一度 観たいと思っています。
ゲオルク役は、本作 + 他一作に主演し、ベルリン国際映画祭の〝 シューティング・スター 〟と ドイツ映画賞 主演男優賞に輝いた フランツ・ロゴフスキ。マリー役は、フランソワ・オゾン監督の『 婚約者の友人 』( Vol.417 ) での演技が 絶賛された パウラ・ベーア ( ’95 年生まれの 若手でいて、大変 大人っぽい雰囲気の持ち主 ) 。
前二作で主演を務めた ニーナ・ホスと ロナルト・ツェアフェルトのコンビは、本作には出演していません。ペッツォルト監督は、もう 彼らを起用しないのでしょうか?
あの歌声を、あの笑顔を 決して忘れない ――。
世界を熱狂させた アメリカ・ポップシーン史上 最高の歌姫。
その知られざる素顔に迫るドキュメンタリー。
ホイットニー
~ オールウェイズ・ラヴ・ユー ~
イギリス/ 120 分
1.4 公開/配給:ポニーキャニオン
whitneymovie.jp
【 INTRODUCTION 】 どこまでも伸びる 圧倒的な歌唱力を備え、ポップス史上に燦然と輝く奇跡のミューズ、ホイットニー・ヒューストン。80 年代から 90 年代の全盛期、メディアを通して見る彼女は 常に溌剌としていて、眩いばかりの笑顔を弾けさせていた。そのパワフルな存在感は、性別、国境、世代、そして人種までをも超えて、同時代を生きた人々に大きな活力を与えた。しかし、『 ボディガード 』の成功と ボビー・ブラウンとの結婚を境に、薬物問題、複雑な家族問題ばかりが 取り沙汰される様になり、48 歳という若さで不慮の死を遂げてしまう。いったい 彼女に何があったのか? メディアの前では 常に笑顔で 陽気なスター、でも 心の奥底は 傷ついた少女。抱えていた複雑な感情をさらけ出し、波瀾万丈な自らの人生と重ね合わせ 歌に ぶつけ続けた――。あの時代、あの瞬間、あの美声は 確かに そこに 存在していた。( チラシより )
W・ヒューストン財団公認の下、アカデミー賞Ⓡ受賞監督 ケヴィン・マクドナルドが、初公開のホームビデオや 家族・友人・仕事仲間等々の証言を紡ぎ合わせ、その知られざる素顔に、鋭く、フェアに迫った 全世界 注目のドキュメンタリー。
前半の約 1 時間は、ホイットニーの誕生 ( ’63 ) から ケヴィン・コスナーと共主演した映画『 ボディガード 』( ’92 ) が 大ヒットし、その主題歌「 オールウェイズ・ラヴ・ユー 」が 音楽史上 最高の 爆発的な売り上げを記録するに至る 栄光への道のりを、後半の約 1 時間は、B・ブラウンとの結婚 ( ’92 ) を境に、驚くほどの勢いで 挫折の道へと進んでいく過程を、彼女の心の闇と共に描いています。
僕が痛ましさと虚しさを最も強烈に感じたのは、カムバックとは言えない カムバック・ツアーのニュース映像……。ホイットニーの歌と姿に失望した 数百人ものファンたちが、途中で席を立って帰り出すシーンでした。そして、インタヴュアーにマイクを向けられた彼女らが発した言葉の数々……。ホイットニーは、それを どう受け止め、どう感じたのでしょうか? 知らずにいるほうが いゝとは思うものの、それが とても気になりました。
本作は「 鋭く、フェア 」なドキュメンタリー映画です。彼女のファンの皆様には、それを覚悟の上で、愛を持って観て頂ければと願っています。
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■大高博幸さんの 肌・心塾
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