【齊藤 薫さん連載 vol.54】なれるものなら“スワン・ビューティ”
華奢でいてはかなげ――誰もが憧れ、守ってあげたいと思う“スワン”系女子。ただ美しいと感じさせるだけではない、凜とした意志の強さを感じさせるのは何故だろうか? 優雅に泳ぐ“スワン”の水面下での必死の水かき。彼女たちの魅力を薫さんが分析します。
今、気になる美女たちは、細い顎と長い首を持った、
文字通りの白鳥みたいな“スワン系”
最近ちょっと気になっているのが、極めて華奢な、まるで白鳥のような美女たち。時代が変わっても、美人の定義はさほど大きく変わらないけど、旬の美人は少しずつ変わっていく。そういう意味で、ジゼル・ブンチェンのようなクールでドライな印象の美女が流行る時代もあれば、まさにミランダ・カーのように、キュートなドール系の美女が支持を集める時もある。そして今、ひとつの傾向として注目されつつあるのが、まさにこの、白鳥のように繊細な美を持つ“スワン系”なのだ。
全身がほっそりしているのは言うまでもないけれど、ことに細い顎、長い首が印象的だからこそ、“スワン系”と呼んでもいい人たち……。
そういう流れが生まれたひとつのきっかけは、なんだかんだ、いつもいろんな話題を提供してくれる“紗栄子さんの存在”なのかもしれない。
言うまでもなくダルビッシュ有との離婚後、自分のブランドを成功させたかと思えば、資産数千億という若き富豪、ZOZOTOWNの社長との交際が大きな注目を浴びた。つまり、「彼女ばかりがなぜモテる?」という、切実な疑問から。
紗栄子の第一印象には、やはり華奢という二文字がいきなり浮かぶ。もちろん、愛らしくてセンスが良くて、さまざまに目を引く人だけれど、何よりも印象的なのは、やはり目立って細い顎と首。
人の印象は、意外と小さなパーツで決まってしまうものだけれど、華奢というイメージの強烈な第一印象を作るのは、やはりこの部分、顎と首なのだ。もちろん女から見ても充分羨ましいが、男の目には、これがまた特別な魅力として映るらしい。もっとも女らしいパーツのツボとして。
もちろん、これが大物男を落とす決め手と言い切ることはできないけれど、たとえ強気なことを言っても、スワン系の顎を持っているだけで、きつい女には見えない。何を言っても可愛く見えてしまう。女として非常に得をするツボ。そうそう、壁ドンに続く恋に恋する女の“憧れのポジション”顎クイも、スワン系の流行につながったのかも…。
ちなみにこれは、今なお“日本を代表する美人画”として、様々な場面で見ることができる「竹久夢二の絵」に描かれるような顎。よほど日本美人の核となるものなのだろう。その後も中原淳一などのイラストによって継承されてきた。やはり日本の伝統美として残されていくほどの、最も重要な美の鍵なのである。
同じタイプに、桐谷美玲という人がいる。この人の華奢さも格別で、まさに男が手を差し伸べたくなるのであろう細さ。とは言え、キャスターなどもこなすこの人は決してヤワな印象ではない。
この2人に共通するのは、意外にもキリッとした芯の強さ。そして、柔らかい知性。細い顎と強い目元の対比もよく似てる。凜とした清らかな印象、優雅さなど、女性にとって重要な形容詞を、この顎がひと通り作ってるのは間違いないが、もうひとつ、“知的な印象”なのもスワンな顎が鍵になるのだ。顎下に余分な肉がついていないこと、それが言ってみれば、几帳面さやデリカシー、スキのなさといった、ちょっと固めのものも作るからなのかもしれない。
いずれにしても、固さと柔らかさ両方を兼ね備えた今どき美人のキモ、それがスワン系の顎であること、知っておいてほしい。
かつての社交界で一世を風靡した「スワン」たちも、
究極の二面性で女性美の象徴となった
さてこの秋、メークの世界でも“スワン・シェーディング”という提案が、ジバンシイからなされていて、ちょっとした話題になっている。
言うまでもなくスワンのような顎の細さとほっそりした首を作るための新しいシェーディング法。ジバンシイのプリズムシリーズから出る新しいフェイスカラーが、微妙な影色をこのスワン・シェーディングに当てることで、今まで失敗が多かったシェーディングを、誰にでも可能にしてくれているのだ。
ここで使われているスワンという言葉、実は1950年代の社交界からヒントを得ている。どういうことかと言えば、戦後間もなくにもかかわらず、とても華やかだったニューヨークの社交界。その花形だったベイブ・ぺイリーなど、ファッションアイコンとして注目を浴びていた美しいセレブたちが、まさに「スワン」と呼ばれていたのだ。中でもベイブ・ぺイリーはその象徴。まさにハッとするほど華奢な、細い顎と長い首を持っていた。
しかもこの人は、ヴォーグの編集者として活躍し、その後も女性誌などで文字通りのカリスマ的存在になっていく。一度目の結婚は石油王の息子。二度目の結婚は、CBSの創始者である大富豪。世界的に有名な脳外科医の娘として生まれニューヨークの上流階級を華やかに生きてきた人なのだが、この人がファッションのインフルエンサーとして特別な支持を得たのも、その細い顎であらゆるドレスを着こなしたから。
やはり細い顎というのは、女性美の圧倒的な象徴で、服を着る上でも、絶対の決め手となるはずなのだ。
さて、このベイブたち、社交界の花形を愛称として「スワン」と呼んだのは、「ティファニーで朝食を」の原作者トルーマン・カポーティ。彼本人は同性愛者だったことが知られているが、彼女たちを「僕のスワンたち」と呼んでいたのは有名。美意識の高さから、カポーティはベイブたちを、圧倒的に美しいものとして崇めたのである。つまりスワンは、やはり女性美として最上級にあるものとして彼がその言葉を選んだのは間違いないのだ。
さらに言えば、白鳥とは〝見た目は優雅に水面を滑っていく〟ように見えるが、水面下では必死に泳いでいる。その二面性をもまた彼女たちに見出していたのではないだろうか? まさに上流階級の頂点にいながらも、そこで輝きを放ち続けるためには、見えないところでの努力を全く怠らなかったこと、それをカポーティが密かに讃えたのではなかったか?
思い出してほしい。バレエ芸術の金字塔「白鳥の湖」で表現されるのも、白鳥美とも言える華奢さ。他の物ではどうしても表現できない、うっとりするほどたおやかで、消え入りそうにはかなげで、それでいて芯の強さを感じさせる美がバレエという舞踏によって描かれた。
ヒロインのオデットと敵役のオンディーヌ、つまり白鳥と黒鳥を、一人二役で一人のプリマが演じることはよく知られているが、まさに正反対の二人の姫を一人で演じるのは、弱さと強さ両方を一人で兼ね備えている存在こそ、魅惑的な女性として最強ということを暗示していた。だからスワンは特別なのだ。
いずれにしても、スワンとはそうしたことも含めて、美しく魅力的な女性の代名詞。だから今、スワン・ビューティを目指してほしい。“スワン・シェーディング”で細い長い首と細い顎を作って。
美的10月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環 デザイン/最上真千子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。