俳優・宮沢氷魚さん「演じるよりも“愛する”。自分でも初めて見る表情」|映画『エゴイスト』スペシャルインタビュー
俳優の宮沢氷魚さんにインタビュー。俳優として存在感を増す一方で、素顔は凪のように静かで、穏やか。「カメラを忘れるくらい、生きられた」という役のこと、日々のスキンケアのこと、そして“愛”のこと―。
愛に正直に生きる。
「このシーン、いつ撮られたのか、全く思い出せないんです」と、宮沢さんが言うのは、出演映画の1シーン。恋人同士で髪を乾かすなにげない場面を「すごく好きな写真」だと言う。
演じるよりも“愛する”。自分でも初めて見る表情
映画『エゴイスト』は、編集者で、ゲイである浩輔(鈴木亮平さん)が、初めて心から愛せる人と出会うが、あることをきっかけに、その献身は愛なのか、エゴなのかを問いかける。宮沢さんが演じるのは、浩輔の恋人となる龍太。主演映画『his』(2020)に続いて同性愛者を演じた。
「『his』のときは、生きづらさを抱える人の声を届けたいという思いが強かったのですが、今回は、役を演じるよりも“僕のままで大切な人を愛そう”というシンプルな感情で臨みました。そうすれば、芝居を間違えることはないと思ったんです」
パーソナルトレーナーの龍太を演じるため、「泣きそうになりながらトレーニングをしました(笑)」。筋肉をしなやかに鍛えた体、トレーナーとしての声のかけ方もリアルだったけれど、何よりも、虚勢を張って生きる浩輔と、けなげに生きる龍太が愛を交わすシーンが美しかった。
「クランクイン前にワークショップ的な時間があり、そこで監督、亮平さんとシーンの目的、メッセージを伝えるにはどうするべきかというプランをじっくり考えたんです。その充実した時間での亮平さんとの関係性を信じて臨めば、絶対に大丈夫だと思えました。自分の中でゆっくり感情を育て、ひとりの人間像を作っていけたことは俳優として幸せでした。準備をしてきたことは裏切らないと、自信をもてた気がします」
そんな中で生まれたのが、宮沢さんが無垢な笑顔を見せるあのシーン。浩輔と龍太の関係性が自然と伝わる表情を「自分でも初めて見る程、いい顔をしている」と自負する。
「このシーン、僕は無意識に笑っていたんだと思います。亮平さんも僕も、作ろうとしてもできない自然な表情なんですよね。撮られている感覚も、芝居をしている感覚もなかった。役と僕の気持ちがリンクしていたからこそ、カメラが回っていることを忘れられたんだと思います。うれしいシーンでは素直に笑えて、苦しいシーンは本当につらかった。龍太としての感情が自然とわき起こって、ナチュラルに役を生きられました。俳優としてすごく意味のある役に出合えたと思います」
愛とは何か。無償の愛は存在するのか。今作を通してずっと考えてきたけれど、答えはまだ出ていない。
何が幸せなのかを実感しながら生きたい
「ひとつ確信できたのは、大切な人に愛を伝えることはとても素晴らしく、美しいということです。自分の中で、“この人を大事にしたい”とい
う思いにはうそをつきたくない、愛に正直でありたいと思いました。そういう意味では、愛とは、誰かのためでもあるけれど、実は自分のためなのかもしれませんね。この映画が大切な人に愛を伝えるきっかけになってくれたらうれしいです」
スクリーンの中の宮沢さんは、透き通るような美肌がまぶしかった。ファッション誌のモデルを務める中で肌の保湿を意識するようになり、スキンケアは季節によって使うアイテムの質感を替えているのだそう。
「化粧水や美容液も、乾燥しがちな冬や花粉症の時期はとろみのあるもの、夏はさっぱりしたいので、みずみずしいものを使っています。ライン使いではなく、好きなものを選ぶことが多いですね。週1回のシートマスクも楽しみです。スキンケアをすることで、朝は自然と仕事モードになり、夜はメイクを落とす中で、ほっとひと息つける。僕にとっては、オンとオフの時間や気持ちを切り替えてくれるものでもあるんです」
昨年は朝ドラにも出演し、話題の映画やドラマで、目が離せない印象を残す。「俳優としての手応えはまだまだですが、関わってきたすべての作品が宝物」だと言い切る。
「作品がもつメッセージをしっかりと表現するためにも、僕自身が日々、何が楽しくて、何が幸せなのかということを実感しながら生きたいと思
っています。誰かを幸せにするには、まずは自分も幸せに生きなくてはと思うんです。そのためにも、健康であることが大事。心も体も健康であれば、幸せをちゃんと感じられるし、自然や映画、歌や言葉などに触れて、何かを感じることもできますよね。そんな風に心が動く瞬間が、実はいちばん美しいことなんじゃないかなと思っています」
保湿アイテムは季節ごとに質感を変えています
愛は他人のためである以上に、自分のためだと気づいた
His Routine
朝はコーヒーからの青汁
いつも5時半頃には起きてコーヒーを豆から挽いて淹れ、飲みながら、ゆっくり体を目覚めさせます。そして青汁を飲んで、シャワー…がルーティンです。
BBクリームは一年中
頬の赤みを抑えるためと紫外線対策に、SPF30のものを一年中使っています。オーディションなどでセルフメイクをするときは、リキッドファンデーションも使っています。
料理で体を整える
先日、熟れすぎたトマトでミネストローネを作ったらおいしかった!自分で作る料理は入っているものもわかるので安心ですし、体と心を整えてくれる気がします。
Profile
宮沢氷魚さん
みやざわ・ひお/1994年アメリカ生まれ。’17年に俳優デビュー。’21年の映画『騙し絵の牙』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。’22年はNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』、映画『グッバイ・クルエル・ワールド』などに出演。1月27日に公開の映画『レジェンド&バタフライ』では明智光秀を演じる。
Movie『エゴイスト』
(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
地元ではゲイであることを隠して生きてきた浩輔は、東京で編集者として自由な日々を送っている。母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太と出会い、初めて誰かを愛する喜びを知るが…。故・高山真の自伝的小説を映画化。
監督:松永大司 出演:鈴木亮平、宮沢氷魚ほか
2月10日公開
Book『エゴイスト』
愛した彼は体を売っていた──。編集者の浩輔は、恋人の龍太、その病身の母との満ち足りた日々に、亡き母への想いを重ねるが、残酷な運命が待ち受けていた。愛とはエゴなのかを問う、喪失と癒しの物語。
¥594/小学館
『美的』2023年3月号掲載
撮影/高野友也 ヘア&メイク/Taro Yoshida(W) スタイリスト/庄 将司) 構成/松田亜子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。