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2013.3.21

大高博幸の美的.com通信(145) 『ザ・マスター』『君と歩く世界』『海と大陸』 試写室便り No.39

(C)MMXII by Western Film Company LLC All Rights Reserved.

マスターは男を救うはずだった。
男はマスターを信じるはずだった。
ザ・マスター』 (アメリカ映画)
3.22 ロードショー。
詳しくは、themastermovie.jpへ。

「物語は第二次世界大戦末期から始まる。海軍での海外赴任から戻った帰還兵のフレディ・クエルは、デパートでのカメラマンとして一般生活に戻っていたが、戦地で患ったアルコール依存を断ち切れず、職場で問題を起こしてしまう。その後も日常生活に適応できず、あてのない放浪の旅に出ていた彼は、密航した船で〈ザ・コーズ〉という新興宗教団体に遭遇し、その船の主であり、教団の指導者である“マスター”ことランカスター・ドッドに迎えられる。(中略) マスターは あるメソッドで悩める人々の心を解放し、カリスマ的な人気を得ていた(中略)。フレディは次第に その右腕として地位を得ていくが、その陰にはマスターの妻が潜んでいた――。」(プレス資料より抜粋)

僕の好みではなかったけれども、強烈な印象を残した『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・トーマス・アンダーソン監督が、5年振りに発表した作品。内容は、破壊されたに等しい精神&常軌を逸した行動が際立つ男フレディと、うさん臭い教団のマスターとの“ブロマンス(ブラザー・ラブ・ロマンス)”。上映時間、138分。
アンダーソン監督の独得の色彩で、1950年代のアメリカが色濃く描写されています。あの時代のカラーグラビアそのもののような色彩のニュアンスと共に、当時のアメリカ映画では扱われるコトのなかった’50年代が、露骨に描写されている感じが興味深かったです。
暴力的で自虐的で、かつナルシスティックなところもあるフレディ役のホアキン・フェニックスは、『荒馬と女』に出演した頃のモンゴメリー・クリフトを想い出させる風貌で、ヤケになりながらも生き抜いて行く姿が、非常に痛々しく感じられました。血筋と戦禍の両方に苦しめられているような表情には、忘れがたいモノがあります。

 

(c) Why Not Productions – Page 114 – France 2 Cinéma – Les Films du Fleuve – Lunanime 

絶望から希望へ。それでも人生に、光は差し込む――。
君と歩く世界』 (フランス・ベルギー合作映画)
4.6 ロードショー。
詳しくは、kimito-aruku-sekai.comへ。

「南仏アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師ステファニーを突然襲った事故は、彼女の人生を一変させた。満場の拍手を浴びながら、シャチの華麗なショーを指揮している最中にステージが崩壊し、両脚を失う大怪我を負ってしまったのだ。失意のどん底に沈んだステファニーの心を開かせたのは、彼女自身にとっても意外な人物だった。ナイトクラブの元用心棒で、今は夜警の仕事をしているシングルファーザー、アリは他の人々のように同情心でステファニーに接するのではなく、両脚がないことを知りながら彼女を海の中へ導いていく。やがてステファニーは、どこか謎めいていて獣のように野性的なアリとの触れ合いを重ねるうちに、いつしか生きる希望を取り戻し、輝かしい未来へと歩き出していくのだった…。」(プレス資料より抜粋)

ハンディキャップを負った女性を優しい男性が支えるという“ステレオタイプの純愛映画”にしないために、シナリオライターは相当苦心したようですが、さらに推敲を重ねたならば、もっとしっくりとした映画になっただろう…というのが、僕の正直な第1の感想です。
主演のマリオン・コティヤールは、大怪我の場面以降、ほとんど素顔で演技しています。微かな色素沈着も見える肌が却って清々しく、メークをしていなくても やはり美人。それにしても、随分と多彩な役に挑戦する人だなぁと、ちょっと感心させられました。
彼女のヒザから下を失った脚は、モチロンCG技術を駆使して表現されているのですが、それが本当に見えるところは凄いの一言。ただし、その技術の高さが逆に目立ってしまうところが、この映画の弱点とも思えてくる…。そんな風に考えてしまう自分がイヤでしたけれど。
1番良かったのは、海水浴を楽しむ人でいっぱいの海辺の場面。周囲の目を気にするのをやめて、「泳ぎたい」と言い出すステファニーの勇気と、すかさず彼女を抱き上げて海に入っていくアリの率直さ。そして、それを強調するコトなく普通に撮っているジャック・オディアール監督の感覚、または意志が素晴らしいと思いました。この場面は、何をするにつけても躊躇してしまう人々に、一歩踏み出すコトの大切さを、そっと教えてくれているようでもありました。上映時間は、122分。

 

©2011 CATTLEYA SRL・BABE FILMS SAS・FRANCE 2 CINÉMA

青い海、青い空、輝く太陽のもと、
ある島の家族と、難民の母子との心の交流。
海と大陸』 (イタリア・フランス合作映画)
4.6 ロードショー。
詳しくは、umitotairiku.jpへ。

「南イタリアのシチリアから遠く離れた地中海に浮かぶリノーサ島。時間が止まったような小さな島も、夏になれば観光客であふれ活気づく。しかし時代が大きく変わりゆく中、漁業が盛んだった島も衰退の一途をたどり、人々の暮らしも大きく変わろうとしていた。
父を海で亡くした20歳のフィリッポも、漁師を続けようとする祖父、観光業に転じた叔父、本土で新生活を始めたいと願う母との間で、この変化に戸惑いを隠せずにいる。そんな ある日、アフリカからの難民、サラとその息子が一縷の望みを求めて、決死の覚悟で海を渡ってきた。海の掟を重んじる祖父は、法を無視して母子を救い、家に迎え入れる。しかし、この人間として尊いはずの行為が、さらなる波紋を呼ぶことになる。」(プレス資料より抜粋)

地球規模のバランスの崩れの中で、法律と人情の板挟みとなって葛藤する素朴な人々の姿を描いたヒューマンドラマ。惹句のひとつに、主人公フィリッポの家族と難民の母子との「心の交流」という表現がありますが、この映画は決して甘くヤワな内容ではなく、厳しい現実を真正面から見据えています。そして この地中海の小さな島の問題は、そのまま世界中のそれとオーバーラップしてきます。答が得られない世界規模の問題を前にして、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督は、ラストシーンでのフィリッポの行動に祈りを託しているように感じられました。
プロの俳優と演技経験のない素人とが共演していますが、両者のアンサンブルが とても良く、そのためにリアルな印象が強められているようです。上映時間は93分。
P.S.この映画を好きになった人には、ヴィスコンティの初期の作品『揺れる大地』の観賞をオススメします。

次回の試写室便りでは、『ヒッチコック』『コズモポリス』『カルテット』を御紹介する予定です。では!

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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