スキンケアニュース
2026.10.25

身体のために時間とお金を使う【中年男性、トキメキ美容沼へ vol.38】

こんにちは、ライターの伊藤聡と申します。私は男性のためのスキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社)を出しました。みなさんは、スキンケアに興味がありますか。スキンケアという言葉から、どんなことをイメージしますか? こちらの連載では、スキンケアに親しんでいく上で役に立つかもしれないあれこれをテーマに書いていきます。トライしてみれば楽しくて奥が深い、スキンケアの世界を一緒に探求していきましょう。

WRITING: 伊藤 聡(いとう・そう)

伊藤 聡(いとう・そう)

伊藤 聡(いとう・そう)

ライター

会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

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何のためになら時間とお金は惜しくないか

先日とある雑誌の企画で、サウナのプロデュース業をしている笹野美紀恵さんとお話する機会がありました。そこで伺った話でなるほどと思ったのは、「サウナに来る男性は、身体のコンディションを保つために時間とお金を使っている。そこが大事」という意見でした。身体のためにお金を使うという発想がない男性は思いのほか多く、そうした男性をどうサウナへ呼び込むかが難しいのだそうです。たしかにそのとおりかもしれません。サウナは体調を整えたり、疲れをいやしたりする場所として優れていると思いますし、定期的に通うことの効果が大きいと私は思っているのですが、少なくない男性が「身体なんて放っておいたって動くのに、どうして時間や金をかけなくてはいけないのか」と感じる傾向があるのも事実です。私自身、スキンケアを始めるまでは、お金は趣味や娯楽に使うものだと思い込んでいたので、それ以外の出費を無意味であるように感じていました。釣りが好きな人が釣竿を買ったり、自動車を好きな人がローンで車を手に入れたりするのが、正しいお金の使い道だと思い込んでいたのです。この考え方が、いかにも「お小遣いをためてファミコンソフトを買いに行く」という子どもの発想から成長していない証拠なのですが……。身体のケアは趣味でも娯楽でもなく、生存の分野に属しています。だからこそ、特に現時点で不調を感じていない男性には響かない。スキンケアを始めるまでの私も同様で、周囲と会話していて「マッサージや整体を受けに行った」だとか、「ジムでパーソナルトレーナーをつけた」といった話を聞くと、脳裏に「身体にお金を使うのってもったいない」という考えがよぎっていました。

生きるために必要な身体のケア

男性の場合、特に手入れをしなくても身体がそれなりに動いてしまうことが、身体軽視の傾向を強化します。ここに男女の違いが大きくあらわれるような気がするのです。こうした差異を、男性にどう理解してもらえばいいのでしょうか。10月16日に公開された西川美和監督の映画『わたしの知らない子どもたち』では、劇中に登場する年配の女性、山井(田中裕子)が、まだ子どもの琴子(小八重葵美)にこう説明する場面がありました。「女は、準備ができた(初潮が訪れた)ときから身重(みおも)なんだよ」。みごとなせりふです。戦争孤児で親がおらず、家も焼けてしまい、男子に混じって路上生活をしていた琴子。彼女は身体ひとつで何も持たずに外を歩き回り、野宿する暮らしをしていましたが、生理が始まった以上、もうこのような生活はつづけられないと悟るのです。たしかに、女性は身体のケアがどうしても必要になり、衛生的な環境で身体を保護しなければ生きていけません。こうした男女の差異を「身重」と表現するのはとてもよくわかります。ままならないものとしての身体が、そこにはあります。ここが男性との大きな違いで、男性の場合、むろん人にもよりますが、身体は制御可能だと感じている人が多い。私もそうでした。このようにして、身体を「つねに手入れしなくてはならない」と周囲から教わる女性と、「放っておいても勝手に動く」と信じ込んでしまっている男性のあいだに、認識の違いが生まれてしまうのは当然かもしれません。

興味がないと、ムダに見えてしまう

私自身スキンケアを始めて、いろいろな方に商品の紹介をする機会も増えましたが、そこでかならず言われるのが、「値段が高い」でした。紹介しているのはプチプラの製品ばかりなので、2000円以下だったりするのですが、そもそも身体にお金を使った経験のない男性が多数ですから、どうして肌に塗るクリームなんかに1800円も出さなくてはならないんだ、と憤慨するわけです。個人的に、その気持ちもわかるだけに紹介が難しい。彼らにとってお金とは、パソコンの速度が早くなるメモリ部品や、50年前に製造されためずらしい古着のジーンズに使うものであって、身体のメンテナンスに使うものではないからです。この気持ちは私も同じです。実によくわかる。多くの男性にとっては、スキンケア製品はおもしろそうに見えないし、おもしろくないことにお金を使う理由がわからないから、もったいなく感じてしまうわけです。サウナに新規の男性客を呼び込む難しさも、そこにあるそうなのです。たしかに「薬草をたくさん使ったハーバルサウナがありますよ」と宣伝しても、そこにピンとくる男性は少ないでしょう。いかに身体をリラックスさせる効果があるとしても、時間を使ったり、お金を使ったりすることには抵抗がある。ここを変えなくてはいけないのですが、どうすればいいのか、なかなか難しいところです。この問いに対する答えは、まだ見つかっていません。時間やお金を、自分の身体に使う習慣を身につけてもらうって、意外に難しいのです。

さて、そんな私が最近買ったアイテムをご紹介いたします。THREEの「バランシング フロー コンディショニング モイスチャライザー」です。7480円。スキンケアに慣れていない男性からすると、割高に感じるかもしれません。しかし、この製品はそれだけの価値がある、高いクオリティのアイテムなのです。肌荒れに対する効果が高く、ひげ剃りあとのケアにぴったり。メンズのラインではありませんが、男性にも使ってほしい肌への優しさがあります。THREEといえば香りのよさが人気の秘訣ですが、この製品の香りも実に心地よく、フレッシュな使用感が楽しめるのもいいところ。この製品に7480円を出してもらうにはどんな説明がいいのか、男性を納得させられる説明をいま考えているところです。身体のために時間とお金を使うこと。これをどうすれば男性の習慣として定着させられるかは、なかなか難しい問題ですが、それができるようになれば、男性はもっと幸福になるし、平均寿命だってきっと伸びると思っているのです。

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※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

WRITING: 伊藤 聡(いとう・そう)

会社員兼ライター。50代にして美容の楽しさに目覚める。著書に『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました』(平凡社刊)

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