「絶対愛」を呼び込む女の条件【齋藤 薫さん連載 vol.64】
今時、年の差婚は珍しくありませんが、先日のフランス大統領選挙で当選したマクロン氏の妻のプロフィールには、驚いた人も多いのでは?
25歳年上の64歳、でも、年齢を感じさせないセンスの良さ、気配の力強さを持った女性。年齢を超え、人を惹きつける絶対条件とは、いったい何なのでしょうか? その引力について薫さんが解き明かします。
これは歴史的絶対愛。25歳年上の女教師は、
奇跡の男をなぜ虜とりこにしたのか
事実は小説より奇なり……。そうした言葉でもまだまだ全然足りないくらいに、世界中に衝撃を与えた驚くべき人生ドラマ……それが、フランスの新しい大統領にまつわる、夫婦のプロフィールだった。先の大統領選挙で当選したのはマクロン氏。大統領として世界最年少の39歳。いわゆるイケメンなのだけれど、隣にいるのはママ? と思ったら、なんと25歳年上の妻だったりして、何よりそれが驚きを持って伝えられたのだ。いや、25歳の年の差は、今時もう珍しいことではないし、女性の方がふた回り上というのも、まぁありえない話ではない。でも、この大統領のケースは、やっぱり小説どころじゃない、そこには信じがたいほどのドラマが潜んでいた。
出会いは、大統領マクロン氏が17歳の高校生の時。その高校で教師をしていた41歳のブリジット夫人に恋をして、僕はあなたと必ず結婚すると、宣言したと言う。ところがこの時41歳の女教師には3人の子供と銀行マンの夫がいた。禁断の恋の噂はすぐ広まり、激怒した少年の両親が、少年を別の高校に転校させるものの、毎日のように連絡してきた純粋な男の気持ちに女教師もほだされた形で、結果的に離婚となり、15年の歳月を経て2人は結ばれる。
まったくもって、小説を超えている。 ただ、ここまででも、まだあり得る事なのかもしれない。でも考えてみてほしい。25歳年上の人との純愛を15年かけて成就させた男は、30代で一国の大統領まで上り詰めているのだ。これは全く奇跡的。小説より奇なり、どころではないという意味がわかったはず。
もちろん、ずっと超のつくエリートで、最初の仕事は財務官僚。2008年には財閥ロスチャイルド家が営む金融グループに入行し、わずか2年で副社長格まで昇進。その2年後に政界に入り、2年で大臣、3年後には大統領になっている。とてつもない出世ぶりだが、実はここに内助の功が大きく作用したと言う噂もあり、何もかもが神がかってる。
実は、こんな説がある。「自分はこの女性と結婚する」と、出会ってすぐに気づき、絶対の信念を貫く男は、社会的にも成功を収めると言う説が。自分の母親のような女性を愛せるというスケールの大きさ。成熟した価値観。自分の決心を信じ続け、貫く意志の強さ。そういうものが、ここまでの圧倒的な立身出世につながったのだと思う。尋常ではない奇跡の男だったからこそ、年齢を超え、常識も超えて人を愛することができたのだろう。
それにしても、40代で17歳の少年の心をつかみ、未来の大統領をそこまで本気にさせ、その愛情をわずかも疑わないと言う〝絶対愛〞を呼び込む人とは、一体どういう女性なのだろう。
絶世の美女というわけではない。しかし何とも雰囲気のある女性。人間的なセンスが姿形に現れている。今やもう64歳と言う年齢、しかし年齢を感じさせない、生き生きとした印象だ。その年齢に見えない、と言うよりは、年齢を考えさせない。年齢などどうでもよくするような、気配の力強さを持った女性と言ってもいい。生命感が煌めいていて、なおかつ命の奥行きが人とは違う印象。言うならば、他者にも力を与える女神のような力を持った人と言っても良いのかもしれない。とてつもなく優秀な男に、それを見抜く能力がたまたま備わっていると、こんなすごい出来事が起こってしまうのである。
尋常ではない力で、人を惹きつける
女神的な引力、その正体を、知っておく
実は80年代のアメリカで同じような出来事があり、こちらは大事件へと発展している。女教師と恋に落ちたのは少年が13歳の時、間も無く女教師が妊娠をして出産をしたものだから、女教師は少年虐待で逮捕までされている。フランスの現大統領の場合は、純愛の色合いが強いが、こちらは少年があまりにも幼かったために犯罪になってしまう。しかし、釈放後にこの2人もちゃんと結ばれる。そこまで強い絶対愛を貫いたのだ。
この実話を基にしたのが、ケイト・ブランシェット主演の「あるスキャンダルの覚え書き」。しかしこの映画の中では、もう1つ、少々歪んだ感情が事を複雑にしている。ケイト扮する女性教師と男子生徒との情事に嫉妬する〝初老のベテラン女性教師〞が登場するのだ。ひどく孤独なこの女性は、美しい女性教師に強く惹かれ、友達以上の感情を持ってしまう。だから、〝背徳の美人教師〞を世間の批判から匿まうふりをして、彼女を独占しようとするのだ。
かくして美人教師は、幼い少年からも初老の女からも執拗に愛されてしまうわけで、この異常な物語の中でも、彼女の独特な魅力が浮き彫りになる。そう言う特種な引力を持っている女性って、一体何が違うのか?
学校に新しく赴任してきた彼女を見て、初老の女教師はこう思う。体中の隅々までが清潔で透き通った女……。まさしくそれが、年齢を超え、性を超えて、人を惹きつける絶対の引力になるのだろう。人間社会の仕組みという一線を越えさせてしまうほどの魅力のひとつは、やっぱり類い稀な透明感なのだ。
男が女に〝一目惚れ〞する絶対の鍵は、アダムとイブの大昔から変わらない。少年にとっては、大人の女の透明感がとても官能的に映るのだろうし、孤独な初老の女にとっては、自分が失ってしまったみずみずしい若さの象徴が妬ましくも愛おしいものに映ってしまうのだろう。この女と一緒にいれば、自らの命も浄化されるような感覚を持てるから。
そもそも透明感は人をとても健康に見せる。単純に透き通った肌は、一見敏感にも見えるけれど、じつは完成度が高く力強い。とても無垢なようでいて、じつはとても力強い生命力を感じさせるのだ。なおかつ、何もかも承知の、懐の深い、完成した人間にも見せるのだ。少なくとも邪念のない、計算高くない、正しい大人に見せるのだ。1つ格上の人間に。だから本来が相手にされないはずの少年も、疎まれるかもしれない初老の女も、彼女ならば自分を受け入れてくれるのではないかと言う予想に立ってしまうのではないか。それもまた、女神的……。
フランスの大統領が、17歳の時、41歳の教師に感じたものは、透明感とは違うものだったのかもしれない。演劇部の顧問だった女教師と演劇部員の間に生まれた感情のツボは、きっと別のところにあったのだろう。でもやっぱり、息子のような年下の男を虜にする大人には、絶対の共通点があったはず。どちらにしても、魂そのものが一段高そうという印象と、生き生きとした力強い生命力。……それが、言葉で伝わる場合もあるし、見た目の透明感で伝わる場合もあると言うこと。
もっと言えば、人が人を惹きつける究極のパワーとは、「この人と一緒に生きたら、素晴らしい人生になりそう」と言うその一点なのだと思う。誰も退屈な、弱々しい人生を送りたいなんて思わない。誰だって、濃密で力強い人生を送りたい。そこにアピールする人が、 圧倒的な引力を持つのだ。相手の人生を変えてしまうほどの。フランスの大統領の人生を想像してみて欲しい。この女性と結婚すれば、とんでもなく素晴らしい人生になるはず……そういう17歳の予感がこの人に大変な力を与えたのだから。
いずれにしても、〝女神的な能力〞を持つ女がこうやって尋常ではない強烈な愛に出会い、誰も体験できない幸せを得ることになるのだ。それを望む人は少ないのかもしれないけれど、でも知っておきたい。私たち女が持つ圧倒的な引力の正体を。
美的8月号掲載
文/齋藤 薫 イラスト/緒方 環 デザイン/最上真千子
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。