テトラヘキシルデカン酸アスコルビル|油溶性のビタミンC誘導体【美容成分大全】
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、ビタミンC(アスコルビン酸)に油溶性のイソパルミチン酸を4つ結合して安定性を高めた“油溶性ビタミンC誘導体”です。皮膚に吸収されるとイソパルミチン酸が外れて、ビタミンCとして働きます。医薬部外品の「美白」有効成分として認められています。できてしまったメラニン色素の色を薄くする働きもあります。美白効果以外に毛穴・ニキビへの効果も期待できます。日本化粧品検定協会が美容成分をくわしく解説する【美容成分大全】。成分を正しく理解して、コスメ選びの参考に!
プロフィール
成分名 | テトラヘキシルデカン酸アスコルビル |
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表示名称 | テトラヘキシルデカン酸アスコルビル(医薬部外品の表示名称:テトラ2-ヘキシルデカン酸アスコルビル)(愛称:VC-IP) |
主な配合アイテム | クレンジング・洗顔、スキンケア、ヘアケア、UVケア |
成分のはたらき | チロシナーゼ活性阻害、メラニンの還元、コラーゲンの産生促進、皮脂分泌抑制、抗酸化 |
医薬部外品としての効能効果 | 美白 |
どんな「効果・働き」があるの?
【油溶性】
油溶性ビタミンC誘導体です。肌の中へ入りやすいことや、クリームなどの油を多く使う化粧品に配合しやすく、しっとりした使用感を得られることが特徴です。ただし、分子の中のビタミンCの比率がとても小さく、同じ効果を発揮させるためには、他の誘導体よりも多くの量を必要とします。
- チロシナーゼ活性阻害
- メラニンの還元
- コラーゲンの産生促進
- 皮脂分泌抑制
- 抗酸化
美白・シミを予防する
チロシナーゼ活性阻害
シミの元となるメラニンは、表皮の基底層にあるメラノサイトという細胞内でつくられます。メラノサイトの中で、“チロシナーゼ”という酵素がアミノ酸の一種であるチロシンに働きかけることで、黒褐色の色素であるメラニンが生成されます。表皮細胞が紫外線を浴びて刺激を受けると、メラニン生成を促す情報伝達物質が放出され、メラニン生成指令を出します。この指令を受けるとチロシナーゼが活性化され、普段よりメラニンが過剰につくられるとシミの原因となります。テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは、チロシナーゼの活性を阻害することでメラニンが過剰につくられることを抑制し、シミを予防します。
メラニンの還元
シミの元となるメラニンは黒褐色をしています。メラノサイトでつくられたメラニンは表皮角化細胞に受け渡されるため、表皮にある細胞内にも存在しています。これらのメラニンが“還元”されて色が薄くなると、結果的にシミが目立たなくなります。メラニンの還元作用によって、肌のくすみを改善したり、シミを薄くする効果が期待できます。
シワやたるみを改善する
コラーゲンの産生促進
真皮に存在する線維芽細胞は、コラーゲン繊維やエラスチン繊維を産生し、肌にハリや弾力性を与えています。ビタミンCは、コラーゲンの正常な立体構造を形成するために働く鉄イオンを還元することで、コラーゲンの産生を促進します。加齢などによって機能が低下するコラーゲンの産生を促進させることで、シワやたるみの改善などのエイジングケアに役立ちます。
ニキビや毛穴をケアする
皮脂分泌抑制
ビタミンCは炎症を抑えるだけではなく、過剰な皮脂の分泌を抑える働きがあります。ニキビケアや、過剰な皮脂分泌で毛穴が開いてしまった場合のケアにも役立ちます。
抗酸化
ビタミンCは強力な抗酸化作用があり、“フリーラジカル”という活性酸素を消去する働きがあります。
●シミ予防:紫外線を浴びて活性酸素が発生することで、メラニン生成指令物質が放出されます。活性酸素を取り除くことで、メラニン生成指令物質の発生を防ぎ、メラニンの過剰な生成を抑制します。
●シワ予防:活性酸素により、真皮のコラーゲン分解酵素が活性化し、コラーゲンの減少や変質が生じます。活性酸素を取り除くことでコラーゲンの分解を食い止め、シワの発生を予防します。
●毛穴ケア:過剰な皮脂分泌に加え、酸化した皮脂が、毛穴まわりの皮膚に対してダメージを与え、メラニンも増加し、毛穴を目立たせてしまいます。皮脂の酸化を抑え、皮膚へのダメージやメラニン生成を抑制し、毛
穴の目立ちを改善します。
●ニキビ予防:テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは“油溶性”で油との相性が良いため、ニキビの発生部位である皮脂腺などへの吸収性が良く、生体内に吸収されてビタミンCになると優れた抗酸化能を発揮します。ニキビの炎症部位で発生する過剰な活性酸素を消去することで、皮脂の酸化を抑え、炎症や不全角化を防いでニキビの症状を改善します。
さらに、抗酸化成分として知られるビタミンEが作用を発揮した後には、酸化されて力を失ったビタミンEを還元して元のビタミンEに戻し、再び抗酸化力を発揮できるようにする作用もあるため、併用すると相乗効果が期待できます。
美容賢者からの「アドバイス」
“油溶性”のため、浸透性と持続性に優れている!
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルは“油溶性”のビタミンC誘導体です。他の水溶性ビタミンCに対して、油分の多い製品や美容オイルなどには配合しやすいというメリットがあります。さらに一般的に、水溶性の成分よりも油溶性の成分の方が角層内に浸透しやすく、皮膚内部に吸収されやすいとされています。水溶性ビタミンC誘導体のアスコルビルグルコシドと皮膚への吸収性を比較すると、テトラヘキシルデカン酸アスコルビルが1.2倍程度多いというデータも報告されています。
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルにはビタミンC本体よりも分子が大きいイソパルミチン酸を4つも結合しています。そのため分子の中のビタミンCの比率がとても小さくなり、同じ効果を発揮させるためには、他の誘導体よりも多くの量を必要とします。
▽もっと詳しく
ビタミンC誘導体の種類一覧
「歴史・由来」その他の雑学
ビタミンCのさまざまな機能は、抗酸化作用によるものです。抗酸化成分は、自らが酸化されることで相手を酸化から守ります。ビタミンCにはその化学構造の中に、抗酸化作用を発揮するところが2か所あります。化粧品に配合した場合、その部分があることで逆に酸化されやすく安定性が悪くなるというデメリットもあります。そのため、これらをふさぐことで酸化からビタミンC本体を守る誘導体がたくさん開発されています。
テトラヘキシルデカン酸アスコルビルはその1つで、この2つの部分にイソパルミチン酸を結合させることにより、安定性を高めています。さらに、それ以外の他の2カ所にもイソパルミチン酸を結合させることで、油に溶けやすくしています。
化粧品の中身の酸化は水の中で起きやすいため、水に溶けないテトラヘキシルデカン酸アスコルビルは安定性の高いビタミンC誘導体です。また、皮膚の内部には“エステラーゼ”という、イソパルミチン酸との結合を切り離す酵素が含まれるため、皮膚内に吸収されたテトラヘキシルデカン酸アスコルビルはビタミンCとなり、さまざまな効果を発揮します。VC-IPの略称は、「ビタミンCイソパルミテート(Vitamin C IsoPalmitate)」からきています。
歴史
1928年にA.Szent がウシ副腎から分離したのが、ビタミンCの発見とされています。また、ほとんど同じ時期にC.G. Kingらによってレモンから分離されビタミンCと同じものであると確認されました。
ビタミンCの化学名はアスコルビン酸(ascorbic acid)ですが、これは抗壊血病効果をもつ酸、抗(anti-)、壊血病(scorbutic)、酸(acid)に由来します。1933年には、ライヒシュタインがビタミンCの化学合成に成功しました。
化粧品においては、ビタミンCや油溶性にした誘導体(モノステアリン酸アスコルビルやモノパルミチン酸アスコルビル)が1980年以前から医薬部外品の「美白」有効成分として使用されていました。
しかし、安定性や効果の面で十分ではなかったことから、1980年代以降に、さまざまな誘導体の開発が盛んにおこなわれました。テトラヘキシルデカン酸アスコルビルはその中でも早くに開発され、長年化粧品に使用されていましたが、2007年に原料メーカーである日光ケミカルズ社の申請により、医薬部外品の「美白」有効成分として承認されました。
主な原料の由来
合成
医薬品やサプリメントには?
医薬品や食品には使用されません。
注意事項
特にありません。
<引用元>
J. Soc. Cosmet. Chem Jpn., 52(3), 205-209 (2018)
日光ケミカルズ社 VC-IP技術資料
日光ケミカルズ株式会社他, 新化粧品ハンドブック, 2006, p.429-433,528-532
鈴木一成, 化粧品成分用語事典2012, 中央書院, 2012, p.370
小西さやか, 知れば知るほどキレイになれる!美容成分キャラ図鑑, 西東社, 2019, p.58-61
※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。
日本化粧品検定協会代表理事、日本薬科大学客員准教授、北海道文教大学客員教授、東京農業大学食香粧化学科客員准教授、各種協会の顧問、学会幹事を歴任。化粧品開発者として科学的視点から美容、コスメを評価できる専門家「コスメコンシェルジュ」。最短最適な美容で無駄を省く「時短美容家」としても活躍中。著書は『美容成分キャラ図鑑(西東社)』など13冊、累計56万部を超える。