今日はじめて袖をとおすイエローのワンピースドレスを着て、待ち合わせの時間よりももっと早く家を出て、どこか広いところを歩こう。歩いてみよう。空がうんと大きくみえるどこか。どこがあるかな、どこがいいかな、そしてマドカはお気に入りの靴をはいて歩きだす。

いつか読んだ本にあった──この空の奥の奥にあるひとかけらの成分は、この自分を形作っている成分ときっとおなじものなのだという文章を思いだして、本当にそうかもしれないと思う。空のむこうから降り注ぐ光を肌のぜんぶでうけとめて、マドカは味わいたいと胸の底から思う。今こうして、いろいろなものが目に映っていること。今、風が吹いたこと。今、楽しそうに笑う人たちとすれ違ったこと。今、ちょっとだけ猫が見えたこと。今、息をしていること、今、思いだせるなにかがあること。そして、大げさだけれど、今、こうして生きていること──大きく息を吸い込んでバッグから携帯電話をとりだすと、メッセージが届いている。お母さんからだ。＜マドカ、25歳、おたんじょうびおめでとう！＞。いつもマドカが生まれた時刻ぴったりに送ってくる。

もう一度、深く息を吸いこんで、両手で頬をおさえてみる。朝の高まりはずっとずっとつづいてる。背中から大きく風が吹いて、ああ、もう、思わず走ってしまいそうになるじゃない！　肌もわたしも、はじめましての25歳、よろしくね、一緒に楽しんで、やっていこうね。