月が青いだなんて、いったい誰が言ったんだろう。寝室の窓のむこう、冴さえ冴ざえとした光を放っている月は完全な円を描いているようにみえて、そして、やっぱり青く、輝いている。夜空だって、ほんとうは闇ではない。世界にはまだ名前のつけられていない色のほうが多いんじゃないかと、カスミは考える。

 本当ならもう眠っていないといけない時間なのに、寝返りをうつたびに、意識の輪郭が濃く、はっきりとしていくような感じがする。明日は何ヶ月も取り組んできた企画のこれからを決める大事なミーティングがあるのに。でも、目を閉じても仕事以外のいろんなものが浮かんでくる。それは言葉だったり、風景の一部だったり、感触だったりした。三ヶ月前、何年もつきあった恋人と別れた。好きな人ができたと言われて、カスミはそれ以上、傷つくのがこわくて、ただわかったとしか言えなかった。でも、ふたりで辿たどり着けるのはここまでだったんだな、という気持ちもした。でも辿り着くってなんだろう。自分でもよくわかっていないのに、なんでわたしはそんなことを思ったんだろう。自分はいつか、誰かと、どこかに辿り着きたいと思っているんだろうか。そしてその状態に至ることのできる愛や恋こそが、最高に素晴らしいものだと思っているんだろうか。それがなにかも、知らないのに。