健康・ボディケア・リフレッシュニュース
2013.10.31

大高博幸の美的.com通信(185) 『ウォールフラワー』『四十九日のレシピ』『ある愛へと続く旅』 試写室便り Vol.54

(C)2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会
©2013映画「四十九日のレシピ」製作委員会

母が遺したレシピに導かれ、母の人生を旅する、49日間の感動の物語。
四十九日のレシピ』 (日本映画、129分)
11.9 ロードショー。49.gaga.ne.jp

【STORY】  誰の人生にも必ず訪れる、大切な人との永遠の別れ。けれども、熱田家の母・乙美は、あまりにも早く逝ってしまった。夫の良平(石橋蓮司)は何ひとつ感謝を伝えられず、人生の壁にぶつかり悩める娘 百合子(永作博美)は、女として今こそ聞きたいことがあったのに、母は もう居ない。そんな折、熱田家に派手な服装の少女イモ(二階堂ふみ)と、日系ブラジル人の青年ハル(岡田将生)が現れる。生前の乙美に頼まれ、残された家族の面倒を見に来たのだというイモは、乙美が とある「レシピ」を書き遺していることを伝える。それは、料理や掃除など日々の家事にまつわる知恵や、健康や美容に関するアドバイスが、楽しいイラスト付きで描かれた手作りの<暮らしのレシピカード>だった。レシピに従って、少しずつ生活を立て直し始める父と娘は、その中の1ページに“自分の四十九日には大宴会をしてほしい”という、生前の乙美の希望を見つける。こうして、母の遺したレシピに いざなわれ、娘と父、イモ、ハルの4人での“四十九日の大宴会”までの奇妙な共同生活が始まるが――。 (プレスブックより)

「子供ができたから浩之さんと別れてあげて。分かってあげてください。彼、優しい人だから言い出せなくて、苦しんでいて…、だから別れてあげてください」。百合子に掛かって来た 勝手極まる 超不愉快な電話の主は、百合子の夫:浩之の不倫相手…。このファーストシーンに、観客は突然 平手打ちを食わされたような腹立たしさを覚えるでしょう。しかも百合子は“妊活”を続けていたのです。
伊吹有喜のロングセラー小説を、永作博美の主演で描いた今秋の話題作。“優しい”のではなく“ユージュウ不断”そのもので、しかも相当無神経な夫との問題が、亡き母の「レシピ」に絡む形で展開する人間ドラマ。誰にも分かりやすくするためなのか、主に重要な脇役達の性格描写や言動にベタな表現が多々見受けられる点と、ラストの百合子の選択に少なからず疑問を感じた僕ですが、とにかく全篇を興味深く観ました。

永作博美は、デリカシーと強さを併せ持つ百合子役を好演。コレは映画を観た後に知った話ですが、“前向きになるために髪を切る場面”までは、敢えてスキンケアをせずにカメラの前に立ったとのコト。その後、ラストに向けて肌がキレイになっていくのは、彼女のそんな役作りの賜だったというワケで、僕は さすがと感心しきり…。
良平役に いい味を醸し出している石橋蓮司(現在72歳)は、元々プロポーションに恵まれた人とはいえ、悲しみにくれている場面でも姿勢が良く(崩れていない)、俳優としてのプロ意識の高さと日々の努力を想像させます。
更生施設出身で20歳のイモは、見た目とは違って精神的には相当大人の女の子。演ずる二階堂ふみは正に適役・好演で、特に最後に見せるスッピンの顔が、とても清々しくてキレイでした。
以前、乙美に助けられたというハル役の岡田将生は、クシャクシャのカーリーヘアで、ヘンな日本語を話すブラジルの日系二世(三世?)をノビノビと演じています。『ひみつのアッコちゃん』での彼とは またベツの魅力を振りまいているので、彼のファンは大喜び間違いナシでしょう。
以下、記憶に残った台詞を3つだけ。
「(離婚について良平に問われ、百合子が答える台詞) 生まれて来る子供に 父親をあげるんだって思えばいいの」。
「(良平が川辺で、ひとり つぶやく台詞) 乙美…、おまえ、こんな男と結婚しちまって…」。
「(かなり後の場面で、イモが良平を なだめるように言う台詞) 私がちゃーんと聞いてたよ。乙美先生、“本当に本当に幸せ”だって。だからね、それでいいんじゃない? 」

P.S. 本作には回想場面が度々出て来ます。百合子or良平が、ふと物思いにふける表情を見せた後、ベツの場面に切り変わったら、それは“昔のひとコマを想い出している”というコト。回想場面の形式(特に今風の)に慣れていない方は、少々戸惑うはずなので、念のため。
P.S. ラスト近く、夕暮れ.夜.そして早朝と、古い町の佇まいを残す熱田家周辺の風景が、うっとりするほど美しく映し出されます。それが百合子と良平の心情を そのまま表現しているようで、ジーンとしてしまう方は少なくないだろうと思いました。

 

© Alien Produzioni / Picomedia / Telecinco Cinema / Mod Producciones 2012
© Alien Produzioni / Picomedia / Telecinco Cinema / Mod Producciones 2012

あなたに出会わなければ 傷つくことも救われることも なかった――。
ある愛へと続く旅』 (イタリア・スペイン合作映画、129分)
11.1 ロードショー。www.aru-ai.com

【STORY】  サラエボで出会った瞬間に恋に落ちた若き日のジェンマ(ペネロペ・クルス)とディエゴ(エミール・ハーシュ)。結婚した二人は子供を熱望するが その願いは叶わず、1992年のサラエボ包囲の最中に代理母候補を見つけて子供を授かった。ほどなくしてジェンマと生後間もないピエトロは戦火の街を逃れたが、父親であるディエゴは一人その地に残り、後に命を落としていたのだった…。長い月日を経た いま、16歳になった息子を伴って、もう一度 過去の想い出をたどるジェンマに、思いもしないディエゴとの真実と深い愛の赦しが訪れる。(試写招待状より)

ペネロペ・クルスが若々しい学生時代から、高校生の息子と向き合う40代の母親までを演じています。トップシーンにリアルな老けメークで現れる彼女は、あの張りに満ちた頬の肉が薄くなっているせいもあり、本当に歳をとってしまったような気がして、一ファンである僕は少々ショックを受けました。本作は 息子を伴ってサラエボを訪れたジェンマが、行く先々で過去を回想する構成となっているため、観客は若いペネロペと老けたペネロペを交互に見つめるコトとなるのですが、彼女の老けの演技は立派に成功していて、10年後、20年後の活躍が保証されているようにも感じられました。
物語の重要な鍵は サラエボの“戦時下”という設定にあり、ジェンマ自身と観客だけが知らない“伏されていた真実”によって驚きの結末へ向かうという手法を採っています。この作劇法に興を そがれるコトさえなければ、この映画は あなたにとって感動の一作となるでしょう。しかし興をそがれてしまうタイプであったとしても、ラストのジェンマの心情と表情の真実には、感嘆せずにはいられないと思います。
出演者は全員好演。端役ながら、精神分析医役で登場するジェーン・バーキンの抑制されたうまさが印象的でした。

 

名称未設定-2

壁際が定位置だった僕は、自由な きみたちと出逢い、笑い、恋をして、傷みを知った。
ウォールフラワー』 (アメリカ映画、103分)
11.22 ロードショー。wallflower.gaga.ne.jp

【STORY】  チャーリー(ローガン・ラーマン)は、小説家を志望する16歳。高校入学初日にスクールカースト最下層に位置付けられ、ひっそりと息を潜めて日々を やり過ごすことに注力していた。ところが、陽気でクレイジーなパトリック(エズラ・ミラー)、美しく奔放なサム(エマ・ワトソン)という兄妹との出逢いにより、生活は一変する。初めて知る“友情”、そして“恋”――。世界は無限に広がっていくように思えた。だが、チャーリーが ひた隠しにする 過去のある事件をきっかけに、彼らの青春の日々は思わぬ方向へ転がり始める――。(試写招待状より)

三人の高校生それぞれの苦しみと喜びを、誇張するコトなく誠実に描き上げた青春映画の傑作です。原作は1999年に出版され、ある学校では“必読書”、ある学校では“禁書”として扱われたという いわく付きの小説で、作者のスティーブン・チョボスキーが脚本・監督を担当しています。「この小説は、とても個人的な理由から書きました。私生活で辛い時期を経験していて、自分自身のために答が必要だったから」と彼は述べたそうですが、この映画の観客は 登場人物達の中に、自分自身や友達等々の姿を 誰もが必ず見い出すコトになるはずです。そしてまた、ストーリーの展開のうまさとキャスティングの完璧さが、この映画を幾多の“センチメンタルな青春回帰映画”とは異なる 特別な存在にしています。

上映時間103分の中には、素晴らしい場面が幾つもありました。トンネル内を走る車の荷台で サムが『サモトラケのニケ』のようなポーズを取る 解放と飛翔を意味する場面、結束感が美しいクリスマスのパーティシーン、サムが涙ながらにチャーリーにキスする場面、ラスト間際の三人の再会場面etcが そうですが、僕にとって最も忘れ難いのは、学校の食堂内での殴りあいのケンカの場面でした。そこには断じて譲れない“自尊心”の美しさが、煌めくように存在していたのです。

不器用ながら前向きで いじらしい チャーリー役のローガン・ラーマン、勝ち気でいて芯は極めて優しいサム役のエマ・ワトソン、同じくパトリック役のエズラ・ミラーは、ほとんど奇蹟に近い見事な共演。『少年は残酷な弓を射る』(’11)で気持ち悪いほどエキセントリックな少年を演じていたエズラ・ミラーは、まるで別人のような生彩を放っていて、僕は非常に驚かされました。
コレは皆さんに ぜひ観てほしい青春映画の新たな傑作。特に前述のチョボスキーの言葉に何かを感じた方々は、決して決して お見逃しなく。

 

 

ビューティ エキスパート 大高 博幸1948年生まれ、美容業界歴46年。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。 ■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

この記事をシェアする

facebook Pinterest twitter

関連記事を読む

あなたにおすすめの記事