大高博幸さんの 肌・心 塾
2018.9.4

『 500 ページの夢の束 』『 寝ても覚めても 』『 ヒトラーと戦った 22 日間 』『 ペギー・グッゲンハイム 』 試写室便り 【 大高博幸さんの肌・心塾 Vol.463 】

500
©2016 PSB Film. LLC

大好きな『 スター・トレック 』の脚本コンテストのために
ハリウッドを目指す、自閉症のウェンディ。
初めての一人旅の、ホントの目的とは――。

チャレンジする心を忘れない全ての人を応援する、感動のハートフル・ストーリー。

500ページの夢の束
アメリカ/ 93 分
9.7 公開/配給:キノフィルムズ
500page-yume.com

【 STORY 】 ウェンディは、大好きな『 スター・トレック 』の知識では、誰にも負けない女の子。自閉症を抱える彼女は、ワケあって 今は唯一の肉親である姉と離れて暮らし、ソーシャルワーカーのスコッティの協力を得て アルバイトも始めた。そんな ある日、『 スター・トレック 』誕生 50 周年を記念して、脚本コンテストが開催されることを知ったウェンディは、渾身の作を書き上げる。だが、もう郵送では締め切りに間に合わないと気付いたウェンディは、ハリウッドまで数百マイルの旅に出ることを決意する。500ページの脚本と、胸に秘めた〝 ある願い 〟を携えて――。( プレス資料より。一部省略 )

自立支援ホームとアルバイト先を往復する以外は、ほとんど どこへも行ったコトのないウェンディが、ベイ・エリアから LA のパラマウント映画社まで、ひとり旅にチャレンジする物語。「 500 ページの脚本を届ける 」という重大な目標を達成するために、予想外のトラブルを ひとつずつ乗り越え、目的地へと近づいて行く健気な姿を見つめながら、「 大好きなコトがある人、一所懸命になれる何かがある人は、強く生きられる 」と、改めて強烈に感じさせてくれた一編です。
ウェンディのように 自閉症ではなくても、意志の強さ・勇気・挑戦心が 少しばかり 不足しているがために、自分の可能性を自ら潰してしまっているタイプの皆さんには、ぜひ観てほしい映画です。

パラマウント社までのバスでの旅は、ウェンディの愛犬ピートが 何故か 言うコトを聞かずに ついて来てしまったり、中盤で バスが事故にあって病院へ運ばれたりと、アクシデント続き。しかも その間、流れ者風の泥棒夫婦に襲われたり、スーパーで金額をゴマかそうとするレジ係に遭ったりもする……。そうかと思うと、そのレジ係を叱りつけて ウェンディを助ける黒人のおばあさんや、明朝一番のバスを「 外のベンチで寝て待つ 」と言う彼女に 困惑しながらも 毛布を そっと掛けてあげる切符売場のお姉さんがいるし、グリンゴン語で説得して 彼女を無事に保護する お巡りさんも登場します ( この三人は いゝ人だ それに アルバイト先のお兄さんも ) 。

しかし 全編中、最も胸を締めつけられたのは、「 こゝが肝心、後には引けない 」とばかりに、ウェンディが 必死になる ふたつの場面でした。
① バス代に 22 ドルが必要なのに、7 ドル 52 セントしか持っていなかったウェンディが、冷たい対応の切符売場の男性に「 これで売ってください、今日だけ、お願い 」と食い下がる場面 ( 似たようなコトが、昔々、僕にも あったなぁ…… ) 。結局 チケットは手に入らなかったものの、彼女は機転を利かせ、それを実行に移します ( こゝは 天晴れ、大拍手! ) 。
② 遂にパラマウント社へ辿り着いた彼女が、「 郵送でしか受け取れない 」と意地悪男から追い払われそうになった時、懸命に猛反撃して目的を果たす場面 ( これに似たコトも あったっけ…… ) 。

ダコタ・ファニング ( エル・ファニングの実の姉です ) は 少々ポッチャリしすぎながら、ウェンディになりきっていて見事でした。ソーシャルワーカー役の トニ・コレット、親代わりに面倒を見てくれた姉 ( 妹思いだが、彼女の扱い方を摑みきれずに苦しんでいる ) の オードリー役に アリス・イヴ、そしてピート役の小犬も 揃って好演しています。
監督は『 セッションズ 』の ベン・リューイン。「 キメ細やかな愛情の持ち主 」という印象を、僕は画面から受けました。みんなを励まし、勇気を与える映画を、これからも作ってください

 

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(С) Cinema Production

ナチの絶滅収容所で最も成功した反乱。
歴史に隠された、その真実に迫る!

ヒトラーと戦った 22 日間
ロシア、ドイツ、リトアニア、ポーランド/ 118 分/ PG 12
9.8 公開/配給:ファインフィルムズ
www.finefilms.co.jp/sobibor

【 STORY 】 アウシュヴィッツと並ぶ 絶滅収容所 ソビボル。死が待つとは知らず、多くのユダヤ人が 国籍や貧富の差に関係なく 列車で送り込まれてくる。大半はガス室で大量殺戮され、残った者には 虐待と屈辱の日々が続いた。そんな中、秘かに脱出を企てるグループがあった。しかし 彼らには 強力なリーダーがいない。そこに 1943 年 9 月、ソ連の軍人で サーシャこと アレクサンドル・ペチェルスキーが 収容者として移されてくると、彼と仲間は 緻密な計画のもと、前代未聞の反乱を計画する。それは 収容者〝 全員の脱出 〟だった。これまで歴史に隠されてきた〝 絶滅収容所で起こった最大の反乱 〟は、一体 どのように成し遂げられたのか。( プレス資料より )

’43 年に ソビボルの ユダヤ人絶滅収容所で起きた 実話に基づく、珍らしくも ロシアで製作されたホロコースト映画。本国では、その反乱から 75 周年を機に公開され、大ヒットを記録したとのコトです。監督と主演を務めたのは、ロシアの国民的俳優 コンスタンチン・ハベンスキー。敵役のナチ親衛隊曹長役を演じたのは、名優 クリストファー・ランバート。

開巻 間もなく、列車でソビボル駅に到着した大勢のユダヤ人たちが、ナチの陰謀など疑いもせず、「 二日ぶりのシャワー! 」と嬉し気にシャワー室 ( 実はガス室 ) へ入っていくまでの様子が、相当 詳細に描かれています。しかし 本作がフォーカスしているのは……、
① 〝 ゾンダーコマンド 〟として強制労働に服す立場となったユダヤ人たちの、極限状態の屈辱の日々。今回、特に酷いと感じさせられたのは、ナチの将校たちによる 下劣 極まりない宴のシークエンス。たゞし その場面で、サーシャが怒りを爆発させる 姿・方法は、非常に高貴で感動的でした。
② 息を潜めて観守ったのは、反乱決行当日の緻密な描写。主要な将校たちを 計画通りに おびき寄せ、次々と首尾よく殺害していくシークエンス。特に、おびき出す役割を自ら進んで引き受けた靴磨きの少年と、虫も殺せないほど温厚な青年の、心を鬼にして計画を遂行する姿が胸に迫ります。誤解を恐れずに言うと、僕は『 忠臣蔵 』の赤穂浪士たちや『 曽我兄弟 』の仇打ちに 声援を送るような気持ちを味わっていました。

映画の構成としては、運びの とても良い部分と 少々良くない部分とが 混在している感じです。ラストの長いスローモーションシーンには、物議をかもした『 コルチャック先生 』( ’90年、A・ワイダ監督作品 ) の影響が感じられますが、成功しているとは言い難い。また、ルカ ( サーシャが愛している少女 ) の台詞が少々過多……。台詞ではなく、目の表情で語るように シナリオを変更したなら、より深く強い説得力が得られたのでは? と僕は思いました。

つらかったのは、エンドクレジットの直前に映し出される字幕でした。それによると、400 人のうち 100 人が脱出時に命を落とし、脱出には成功したものの、密告等によって 150 人が殺されたとのコト……。しかし 何もしなければ、助かった人は おそらく皆無。しかも ソビボルで何が行われていたのかまで 闇の中に葬られたかも知れないという点に、大きな救いを見い出すべきだと 僕は考えるコトにしました。

P.S. 〝 ゾンダーコマンド 〟とは、収容所に到着したユダヤ人たちの中から ナチ親衛隊が選抜し、数カ月の延命と引き換えに、他の同胞たちをガス室へ誘導……、さらにガス殺遺体を処理し、彼らの遺品の分類から整理までを強制された〝 特別労務班員 〟を意味します。この〝 ゾンダーコマンド 〟を中心に描いた映画としては、カンヌ国際映画祭のグランプリをはじめ、数々の賞を受賞した『 サウルの息子 』( Vol.323 ) が有名です。御参考までに。

 

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©️Roloff Beny / Courtesy of National Archives of Canada ©️“Courtesy of the Peggy Gugggenheim Collection Archives, Venice”.

20 世紀を代表するアートコレクションを たった一人で築き上げ、
華麗な恋愛遍歴とともに、多くの伝説を生んだ女性の痛快な一生。

ペギー・グッゲンハイム
アートに恋した大富豪
アメリカ/ 96 分
9.8 公開/配給:SDP
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【 INTRODUCTION 】 水の都、ベネチア。アートの都としても有名な この地に、個人のものとしては 質・量ともに世界最大級のコレクションを有する美術館が存在する。その名も「 ペギー・グッゲンハイム・コレクション 」。NY の富裕な家系に生まれたペギーは、20 代の頃、伝統と格式だらけの世界から逃れるため、第一次大戦後の開放的な雰囲気にあふれるパリへ単身渡欧。当時、まだ価値を認められていなかったシュルレアリズムや抽象絵画のような革命的な表現に出会う。自由を謳歌する反骨的な芸術は ペギーの肌になじみ、芸術家たちを支援する傍ら、世間知らずの令嬢から現代美術のコレクター、そして「 伝説のパトロネス 」へと華麗なる転身を遂げていく。本作は、ペギーの生前に収録されたインタビューに基づき、その人生を追ったドキュメンタリー。( 試写招待状より。一部省略 )

駐車場のような外観を呈す NY のグッゲンハイム美術館なら 行ったコトがありますが、ペギー・グッゲンハイム( 1898 ~ 1979 ) の名と ベネチアの美術館については、僕は何も知りませんでした。

ペギーは 非常に裕富な ユダヤ系の家に生まれた令嬢、お嬢様。父親は 1912 年のタイタニック号沈没事故で、救命具を他人に譲って亡くなった ベンジャミン・グッゲンハイム。21 歳 ( ’19 ) の時、父の遺産 45 万ドルを相続、23 歳でパリへ渡り、多くの芸術家との交際が始まります。第二次世界大戦 勃発を機に NY へ戻りましたが、戦後、49 歳で再び渡欧。翌年、ベネチアのカナルグランデ沿いの邸宅を購入し、’51 年に自らのコレクションを一般公開したのが 邸宅美術館「 ペギー・グッゲンハイム・コレクション 」の始まり。その間に 結婚と恋愛を繰り返し、「 蒐集作品よりも 恋人の数のほうが多かった 」などと揶揄されながらも、ペギーは「 常人には真似のできない、胸のすくような人生 」を送ったのでした。

上映時間 96 分に登場する アーティスト & インタビュー出演する文化人が とても多く、ひとりの稀有な女性を描いたドキュメンタリーとしては、はっきり言って総花的。ペギーの伝記の著者である ジャクリーン・B・ウェルド ( 一番下のスティルの女性 ) のトークを中心に、ペギーのパーソナリティを もっと深く掘り下げて描いたなら、さらに面白くなったに違いない……などと感じたのは、僕ぐらいでしょうか?

タイタニック号沈没の部分のクリアなモノクロ映像は、モチロン 実写ではなく、’40 年代 or ’ 50 年代に製作された劇映画からの抜粋。その他、J・コクトーの『 詩人の血 』、S・ダリが A・ヒッチコックに協力した『 白い恐怖 』のシュールな場面等も 幾つか 捜入されていました ( 映画の題名は 僕自身の昔々の記憶なので、もしも 間違っていたら ごめんなさい ) 。

これは 大金持ちだったからこその人生ではあるにしても、それだけでは決して実現できなかった ペギーの 情熱・信念・根性・先見の妙を、少くとも垣間観るコトのできる一篇です。監督は、リサ・I・ヴリーランド。

 

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©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINÉMAS

愛してしまう。「 あなた 」を――。

違う名前、違う ぬくもり、でも 同じ顔。
運命の人は 二人いた。

寝ても覚めても
日本、フランス/ 119 分
9.1 より公開中/配給:ビターズ・エンド
www.netemosametemo.jp

【 INTRODUCTION – STORY 】 実直な男・亮平と出会い、惹かれていく朝子。しかし、朝子には 亮平に告げていない秘密があった。亮平は、朝子が運命的な恋に落ちた かつての恋人、麦 ( ばく ) にそっくりだったのだ――。人は なぜ 人を愛するのだろう。その人の 何に惹かれるのか、なぜ、その人でなくては ならないのか。恋に落ちた時の甘さ、せつなさ、苦しさとともに、先の読めないスリリングさを併せ持つ「 大人の恋愛映画 」の傑作が誕生しました。是非、この機会に ご高覧くださいませ。( 試写招待状より )

原作は 芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説。監督は『 ハッピーアワー 』の新鋭・濱口竜介。主演は 東出昌大 ( 亮平と麦の二役 ) と 新星・唐田えりか ( 朝子役 ) 。

まず 題名が とてもいゝ。そして 上記の短い紹介文に 大いに惹かれて、ぜひとも 試写室で観たかった作品です。But、スケジュールがうまく合わず、大雨にも たゝられて、試写会には 遂に行かれませんでした。

この映画は、多分 面白いと思います。紹介文にある「 なぜ 」が とても気になります。もしかしたら〝 過去生 〟が絡んでくる話? それとも○○○……? 興味を抱いた皆さんは ( きっと多いはず ) 、いろいろ想像を巡らしながら観に行ってください。原作の愛読者の皆さんは、「 なぜ 」について聞かれても「 ウフフン 」とゴマかしながら、黙って御一緒してください。僕も映画館で観るつもりです ( 試写が NG になった『 僕のワンダフル・ライフ 』と『 シェイプ・オブ・ウォーター 』は、後で しっかり 観ましたよ ) 。

 

 

アトランダム Q&A企画にて、 大高さんへの質問も受け付けています。
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biteki-m@shogakukan.co.jp
( 個別回答はできかねますのでご了承ください。)

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸さんの 肌・心塾
http://biteki.com/beauty-column/ootakahiroyuki

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