『 素敵な遺産相続 』『 ローマ法王になる日まで 』『 ハロルドとリリアン 』『 夜明け告げるルーのうた 』 試写室便り 【 大高博幸さん連載 Vol.395 】
大高博幸さんによる映画試写会便り。今回は『 素敵な遺産相続 』『 ローマ法王になる日まで 』『 ハロルドとリリアン 』『 夜明け告げるルーのうた 』 をご紹介します。
人生、恋愛も お洒落 ( しゃれ ) も
まだまだ これから!!
アカデミー賞® 2 大女優競演で贈る
人生 リスタートの物語!
素敵な遺産相続
アメリカ/ 92 分
6.3 公開/配給:ファインフィルムズ
finefilms.co.jp/isan
【 STORY 】 夫に先立たれた元教師のエヴァ ( シャーリー・マクレーン ) を、40 年来の親友 マディ ( ジェシカ・ラング ) は 明るく励ましていた。そんな中、夫が遺した生命保険 5 万ドルが 保険会社の手違いで 500 万ドルも振り込まれる。間違いに気づいたエヴァは 返金しようとするが、マディは そのお金で「 美しい島でバカンスを楽しもう 」と提案。2 人は早速、ヨーロッパの人気リゾート地 カナリア諸島へ向かう。
オシャレな服を購入し、豪華なホテルで豪遊三昧の 2 人は、貿易商のチャンドラー ( ビリー・コノリー ) と出会う。感じの良い老紳士だが、約束を忘れたり、会話がループしたり、単語が言えなかったりと 話が かみ合わない。しかし、チャンドラーの穏やかで優しい態度に エヴァは惹かれていく。
その頃、保険会社の職員 ヴェスプッチ ( ハワード・ヘッセマン ) は 保険金の回収の為に、エヴァの娘 クリスタル ( デミ・ムーア ) を連れて グラン・カナリア島へと向かう――。 ( プレス資料より。一部省略 )
還暦を迎えた女同士の友情と バカンス先でのロマンスに、ほんの少し怖いサスペンスをミックスした軽快なコメディ。全篇に漂う やゝ外れた感のあるユーモアのセンスが 却って新鮮で、面白い一篇となっています。
主演は、『 愛と追憶の日々 』( ’84 ) でアカデミー賞®主演女優賞に輝いた シャーリー・マクレーン ( ’34 年生まれ ) と、『 トッツィー 』( ’83 ) で同助演女優賞を、『 ブルースカイ 』( ’95 ) で同主演女優賞を獲得した ジェシカ・ラング ( ’49 年生まれ ) 。
S・マクレーン演ずるエヴァも J・ラング演ずるマディも 年齢相応の分別は備えてはいるものの、赤ん坊のようなところがある性格なので、とんでもない破目に遭うのでは? と、僕は ついつい心配しながら ふたりの行動を見守るコトに……。
S・マクレーンは、マンガチックで善良なコメディエンヌ振りを 遺憾なく発揮 ( たゞし地道なダイエットが必要 ) 。J・ラングは、すれっからし風でいて 自分にも親友にも正直な 恋多き女を好演 ( たゞしネックケアが絶対マスト。スリムなせい or 洗いすぎ or 保湿不足 or ハリウッドの乾いた空気のせいなのか、首筋のシワが とても目立っています。But、彼女の口元の表情の魅力は、皆さんの誰もが見習うべき ) 。さらに、露骨な描写ではないものの、それぞれが セックスシーンまで披露するというサービス振りです ( 笑 ) 。
脇役では H・ヘッセマンの味のある演技が素晴らしく、説明的でモタつきがちな場面をも 巧みに切り抜けていました。母親思いの娘を演ずる D・ムーアは、率直に言って 影が薄い印象。黒ブチめがねが似合っていないのかも……。
ロケが行われたのは、大西洋のハワイと呼ばれているカナリア諸島。大人気のリゾートホテル ( ロペサン・ホテル・グループ ) を含め、その美しさは眼福です。
監督は『 メラニーは行く! 』『 最後の恋のはじめ方 』等の アンディ・テナント。
バチカン史上 最も民衆から愛されている現法王 フランシスコ。
彼の知られざる激動の半生を綴った
感動の実話。
ローマ法王になる日まで
イタリア/ 113 分
6.3 公開/配給:シンカ + ミモザフィルムズ
roma-houou.jp
【 STORY 】 アルゼンチンの貧しい地域に生まれ育った心優しき一人の青年が、史上初のアメリカ大陸出身のローマ法王に就任するまでの道のり。コンクラーヴェ ( 法王選挙 ) のためにバチカンを訪れたベルゴリオ枢機卿は、運命の日を前に自身の半生を振り返る――。
化学を学んだ学生時代から、やがて神に一生仕えることを選び、神学を学び始めた。時はビデラ軍事独裁政権下、多くの市民が反勢力の嫌疑で迫害され、仲間や友人も失った。この苦難の時代こそが 後にローマ法王となる彼の信仰と勇気を より強いものにしていく……。 ( 試写招待状より。一部省略 )
2013 年 3 月、第 266 代ローマ法王に就任したフランシスコ = ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ ( 1938 年生まれ )。常に社会的弱者、貧困にあえぐ人々に寄り添い、’14 年には 米国とキューバの国交回復の仲介役を果たし、最近では 壁を作ると宣言した選挙運動中のトランプ大統領候補 ( 当時 ) に苦言を呈すなど、世界の政治にも多大な影響力を持つ人物……。
これは、自身の純粋な良心に従って 苦難の時代を生き抜いた現法王の 若き日を描いた、いわゆる聖人伝モノとは異質な 人間的感銘と共感に満ちた作品です。
同時に 非常に驚愕させられたのは、1976 年から ’83 年の約 8 年間に及ぶアルゼンチンの軍事独裁政治の実態 = ヒトラーによるナチスの時代さながらの、信じがたい非人道的行為の数々でした。
密度の濃い 113 分間中、特に印象的だったのは次の場面。
① 1961年、若きベルゴリオ ( ロドリゴ・デ・ラ・セルナ ) が、化学の恩師 エステル・バッレストリーノと会話を交わす場面 ( エステルは 後に反勢力者として、同士たちと共に殺されてしまう )。
② 1985年、ドイツに招聘されていたベルゴリオが、ふと立ち寄った教会の礼拝堂で、ベネズエラ出身の中年女性から「 結び目を解く聖母マリア 」の絵にまつわる話を聞き、とめどなく涙をこぼす場面。その中年女性の真実そのものの自然な演技に強い説得力があり、ベルゴリオは その時点で、新たな回心と より強靭な信念 or 指針を得たようです。
③ ブエノスアイレスに戻ったベルゴリオが、ある暴動が激化する現場でミサを執り行い、スラムに暮らす人々の窮地を救う一連の場面。
④ ラスト直前、法王フランシスコとなったベルゴリオ ( セルヒオ・エルナンデス ) が、サンピエトロ大聖堂のバルコニーから 広場を埋め尽くした大群衆に「 ボナ セーラ 」と親しみを込めて呼びかける場面 ( 広場は歓喜に沸き、熱狂の渦に包まれる ) 。
本作は、良心と信念を貫くベルゴリオの生きざまと、彼が愛し 彼を支えた人々の姿を描いたヒューマンドラマであり、宗教に無関心な方々の心にも必ず響くと思います。
監督は『 我らの生活 』『 ハッピー・イヤーズ 』の ダニエーレ・ルケッティ。
1960 年代以降のハリウッド映画を支えた職人夫婦、
絵コンテ作家の巨匠 ハロルドと、
名リサーチャー リリアンの
知られざる〝 ラブ・ストーリー 〟。
ハロルドとリリアン
ハリウッド・ラブストーリー
アメリカ/ 94 分
5.27 公開/配給:ココロヲ・動かす・映画社〇
www.harold-lillian.com
【 INTRODUCTION 】 第 2 次世界大戦の兵役から帰還したハロルドは、リリアンと出会い 恋に落ちる。厳格なユダヤ人家庭に育ったハロルドは 孤児のリリアンとの結婚に強く反対されるも、馳け落ち同然で移住したハリウッドで結ばれる。週 53 ドルの収入ながら 仲睦まじく暮らすふたりに、やがて第一子が誕生。ハロルドは自分の作品を各映画会社に売り込み、絵コンテ作家として仕事をスタートさせる。( プレス資料より抜粋 )
’56 年の超大作『 十戒 』をはじめ、『 ベン・ハー 』『 スパルタカス 』『 ウエスト・サイド物語 』『 鳥 』『 卒業 』『 俺たちに明日はない 』etc、etc、ハリウッド全盛期を代表する名作の 絵コンテを手掛けたハロルドと、リサーチ係として働いたリリアンの 心温まるドキュメンタリー。映画の裏側で 映画作りに貢献してきた 職人夫妻にスポットを当てる、極めて珍しい作品です。
2007 年に他界したハロルドとの人生を 笑顔で回想するリリアンの話を軸に、ハロルド作の絵コンテと、それに基づいて仕上げられた実際の場面とを同時に紹介する 94 分。
小学生の頃から、僕が 胸をときめかせて観てきた映画の数々……。監督は C・B・デミルや W・ワイラー、A・ヒッチコック等々ですが、世界的な巨匠である彼らも、ハロルドとリリアンの 創造力・アイディア・リサーチなしでは、あれだけの映画は作れなかったというコトが、今回初めて よく分かりました。特に映画ファンの皆様には、決して見逃がせない一篇です。
本当のことは 歌の中にある。
いつもなら
照れくさくて言えないことも。
夜明け告げるルーのうた
日本/ 112 分
5.19 公開/配給:東宝映像事業部
lunouta.com
【 STORY 】 寂れた漁港の町・日無町 ( ひなしちょう ) に住む中学生の少年・カイは、父親と祖父との 3 人暮らし。もともとは東京に住んでいたが、両親の離婚によって居を移したのだ。父や母に対する複雑な想いを口にできず、鬱屈した気持ちを抱えたまま 学校生活にも後ろ向き。唯一の心の拠り所は、自ら作曲した音楽をネットにアップすることだった。
ある日、クラスメイトの国男と遊歩に、彼らが組んでいるバンド「 セイレーン 」に入らないかと誘われる。しぶしぶ練習場所である人魚島に行くと、人魚の少女・ルーが現れた。楽しそうに歌い、無邪気に踊るルー。カイは、そんなルーと日々行動を共にすることで、少しずつ自分の気持ちを口に出せるようになっていく。しかし、古来より日無町では、人魚は災いをもたらす存在。ふとしたことから、ルーと町の住人との間に 大きな溝が生まれてしまう。そして訪れる町の危機。カイは 心からの叫びで 町を救うことができるのだろうか? ( プレス資料より。一部省略 )
圧倒的な独創性でファンを魅了する、湯浅政明の初の完全オリジナル劇場用アニメーション。同調圧力がマンエンする現代社会に於いて、湯浅監督が「 心から好きなものを、口に出して『 好き 』と言えているか? 」と疑問を抱いたコトが、この映画の出発点になったそう。
カイとルーを中心に 国男と遊歩のキャラクターがイキイキしていて、それだけでも面白いのですが、線と面で描かれた人物と 写実的に描き込まれた背景とのコントラストとハーモニー、及び 空想や回想シーンの画調の違いに眼が釘付け。特に暗い夜のシーンの美しさは感動的です。声優陣の台詞も いわゆるアニメ声とは異なり、録音技術の高さと相まって 耳に心地良く感じられました。
ひとつ気になったのは、場面が転換する際のブツ切れ感。But、それも湯浅監督の作風やリズムに 僕が慣れていないせいだろうと思った程度で、この映画は 特に主要キャラクターが愛らしくて好き。中でも 一番上のスティルの左側、遺伝性のハゲを恐れて ヘアケアに〝 必要経費 〟をかけている国男 ( 遊歩を誰かに取られたくないと、心ひそかに思ってもいる ) が、親戚の男の子のように 愛おしく感じられました。
これは 誰と観ても楽しめる作品。試写で見逃した『 夜は短し歩けよ乙女 』( 既に公開中の湯浅監督作品 ) 、僕は映画館で観るつもりです。
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