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2014.12.2

大高博幸の美的.com通信(260) 『おやすみなさいを言いたくて』『自由が丘で』『毛皮のヴィーナス』『エレナの惑い』『ヴェラの祈り』 試写室便り Vol.81

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(c)paradox/newgrange pictures/zentropa international sweden 2013

愛する家族か? 使命ある仕事か?
究極の「人生の選択」に世界中が涙した、
今を生きる全ての女性に贈る、心揺さぶる物語。
おやすみなさいを言いたくて』 (ノルウェー=アイルランド=スウェーデン合作/118分)
12.13 公開。oyasumi-movie.jp

【STORY】 アフガニスタン、ケニア、コンゴ… 世界各地を飛び回る報道写真家のレベッカは、常に死と隣り合わせになりながら 真実を伝えるためにシャッターを切っていた。そんな彼女が仕事に打ち込めるのは 理解ある夫 マーカスと、しっかり者の長女 ステフ、天真爛漫な次女 リサ達、アイルランドで暮らす家族のおかげ。日常生活を一緒に送れなくても、すべて上手くいっていると思っていた。あるとき 取材のために命を落としかけたレベッカは 家族のもとへ。だが、その時 初めて、離れ離れの生活に疲れ果てた夫、思春期のステフの本当の気持ちに気づく。家族のために、人生を捧げてきた仕事を やめると決意するが――。(チラシより。一部省略)

『イングリッシュ・ペイシェント』でアカデミー賞®助演女優賞に輝いた ジュリエット・ビノシュが、家族への愛と仕事への使命感との狭間で葛藤するレベッカを熱演。監督は、元報道写真家という経歴を持つノルウェー出身の エーリク・ポッペ。マーカス役は ニコライ・コスター・ワルドー。さらに レベッカの親友役で、人気ロックバンド:U2のドラマー:ラリー・マレン・ジュニアが出演しています。
原題は “A Thousand Times Good Night”。日本公開題名が想像させそうな“ママと娘の甘いお話”ではなく、実際は かなり辛辣な内容。開巻、レベッカがアフガニスタンのカブールで自爆テロの一部始終をカメラに収めている場面から、僕は全篇の大半を 息を詰めて観るコトに…。
紆余曲折があった後、ラストシーンは再びベツの自爆テロの取材現場を映し出すのですが、そのシーンは開巻部以上に衝撃的。正直に言って 僕の目に最も強く焼きついたのは この場面。迷いや戸惑いは全くなく、目的を果たすためなら怖れさえ感じていない(ように見える)テロの実行者と、あらゆる惨状を徹底的に撮ってきたはずのレベッカの心理状態…、その対比でした。

 

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(C)2013 R.P. PRODUCTIONS – MONOLITH FILMS

最後に現れた女優との二人だけのオーディション。
演出家が堕ちた欲望の罠とは――?
毛皮のヴィーナス』 (フランス=ポーランド合作/96分)
12.20 公開。kegawa-venus.com

【STORY】 オーディションに遅刻してきた無名の女優 ワンダと、自信家で傲慢な演出家の トマ。がさつで厚かましくて 知性の欠片もないワンダは、手段を選ばず強引にオーディションを懇願し、トマは 渋々 彼女の演技に付き合うことに。ところが ステージに上がったワンダは、役を深く理解し、セリフも完璧。彼女を見下していたトマを惹きつけ、圧倒的な優位に立っていく。二人の芝居は熱を帯び、次第にトマは役を超えて、ワンダに身も心も支配されることに心酔していくのだが――。(プレスブックより。一部省略)

『戦場のピアニスト』『テス』『ローズマリーの赤ちゃん』等で “鬼才にして巨匠”と呼ばれる ロマン・ポランスキー監督が、妻の エマニュエル・セニエ(ワンダ役)と 監督自身によく似た容貌の マチュー・アマルリック(トマ役)の主演で描いた “妖しくもセンセーショナルな世界”。
稲妻が閃き、雷鳴が轟くパリの街外れ。オーディション会場となっている古びた小さな劇場に ワンダが入って来るシーンに始まるのですが、物語はワンシチュエーションで展開し、映し出されるのは 誰もいない客席と舞台と舞台裏のみ。主演のふたり以外は 人影さえ見えないという構成。
ワンダは 厚顔無恥でハスッパな人物でありながら、台本を片手に演技テストを始めると、一瞬にして 貴婦人の言葉づかい、表情、身のこなしを披露します。E・セニエは その変化と切り替えを驚くほど巧みに演じているのですが、想像力と観察力と日頃の自己訓練、そして真紅の口紅さえあれば、多少なりとも 誰もが近づける技かもしれない と思ったりもしました。
それは ともかく、ワンダの相手役を務めながら、トム自身のマゾヒズムとフェティシズムがムキ出しになってくるプロセスにも、独得の迫力がありました。

 

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(C)2014 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

この街を 僕は いったりきたり。
恋も いったりきたり。
加瀬亮 主演 × ホン・サンス監督 最新作
自由が丘で』 (韓国/67分)
12.13 公開。www.bitters.co.jp/jiyugaoka/

【STORY】 想いをよせる年上の韓国人女性を追いかけて、ソウルへやってきた男、モリ。しかし彼女は見つからず、彼女に宛てた日記のような手紙を書き始める。彼女を捜して、ソウルの街を いったりきたり。同じゲストハウスに泊まっているアメリカ帰りの男と仲良くなり、毎晩のように飲んで語らって。迷子になった犬を見つけたことで、カフェ<自由が丘>の女主人と急接近。ワインを飲んで良いムードに…。坂道と路地の多い迷路のような街で、時間の迷路に迷い込むモリ。果たしてモリは 彼女に出会えるのだろうか? (試写招待状より。一部省略)

題名は、モリが足繁く通う“HILL OF FREEDOM”というカフェの名に由来…、東京の自由が丘とは無関係の話でした(笑)。
本作は 時系列とは異なる形で構成されていて、こうした形に慣れていない観客は「編集ミス?」と思ってしまいそう。しかし、実は そこが本作の面白いポイントのひとつ。過ぎた時間って、記憶の中で 順序が入れ替わっていたりするコト、よくありますよね? そんな感覚を、ホン・サンス監督は 彼ならではの手腕で、面白おかしく表現しているのです。
モリ役の加瀬亮の演技は とても自然体。何気ない表情と動き、ゆっくりと考えながら話す英語等に、彼独特の魅力が にじみ出ています。彼を観ながら 僕は、少々風変わりな仙人の両親と どこかで はぐれてしまった幼い子供が、日本で成長して大人になった…、そんなミョーな空想を抱きました。そして 陰のある、大正時代辺りの お坊さんなどを演じている彼を 観てみたくもなりました。韓国人俳優たちとのアンサンブルも良く、アメリカ帰りのサンウォン役:キム・ウィソン、ゲストハウスの女主人:ユン・ヨジョンとの やり取りが 特に印象的でした。
最高に良かったのは、モリを元気づけようと サンウォンが彼を連れ出す 飲み屋の場面。ホン・サンス作品には、向かい合って飲んだり食べたりしながら会話するという場面が必ずあるのですが、本作の飲み屋の場面は 映像としても非常に美しく、小津安二郎監督作品に匹敵する程の 温かい味わいがあったと思います。
エンディングは、かなり はしょったような、しかも順序が また逆になっている2場面から成り立っていて、観客を微笑させながら送り出してくれる感じが、とてもとても良かったです。ホン・サンス作品の 評価と人気が 一層上がるコトは確実でしょう。

 

 

エレナヴェラ『父、帰る』の アンドレイ・ズビャギンツェフ監督2作品、10年ぶりの日本公開。

「自分は 誰のために生きているのか?」「どうして、うまく伝えられないのか?」
諦めと、諦められない“何か”――。
光を求めた二人の女性の 魂が向かう先とは。

それは 愛の不在がもたらす、妻の報い。
「明日、遺言を作成する――」。夫の一言が、彼女を善悪すら存在しない地へと掻き立てていく――。
エレナの惑い』 (ロシア/109分)
12.20 公開。www.ivc.tokyo.co.jp/elenavera/

【STORY】 モスクワ、冬。初老の資産家と再婚した元看護士のエレナは、生活感のない高級マンションで、一見裕福で何不自由のない生活を送っている。しかし その生活で夫が求めるのは、家政婦のように家事をし、求められるままにセックスをする従順な女の姿だ。そんな生活の中で、彼女は唯一の自己主張のように、前の結婚でもうけた 働く気のない息子家族の生活費を工面している。しかし そんな日常は、夫の急病により 一変する。「明日、遺言を作成する――」。死期を悟った夫の その言葉と共に、彼女の「罪」の境界線が ゆらいでいく。そして、彼女がとった行動とは……。(チラシより。一部省略)

ズビャギンツェフ監督の今回の2作品は、大人の女性向き(精神的に成熟度の高い 若い女性を含めて)。どんな映画にも似ていない作品で、心理サスペンス風であるにしても、いわゆるエンターテインメントの類とは一線を画しています。
『エレナの惑い』は、働く気が全くない主人公の息子を筆頭として、感心できない人物ばかりが登場するアクチュアルな題材で、“21世紀の「罪」を問うドラマ”。嫌悪感を覚えながらも、誰の心の中にも「全く ない」とは言い切れない人間の感情が、観る者を惹きつけます。
ラストは、エレナと息子家族(妊娠中の義娘と孫ふたり)との団欒の場を映し出すのですが、再び元の木阿弥、または それよりも一層悲惨な状況が待ち受けていそうな予感を抱かせました。

「妊娠したの、でも あなたの子じゃない」。
妻は 愛を確かめたかった……。でも それは浮遊し、いつでも孤独の姿しか見せない――。
ヴェラの祈り』 (ロシア/157分)
12.20 公開。www.ivc-tokyo.co.jp/elenabera/

【STORY】 夏を過ごすために、亡き父が遺した田舎の家を訪れた ある家族。美しい景色の中で流れる静かな家族の時間は、妻 ヴェラの思いがけない告白で暗転していく。孤独より深い海の底を見てしまった女性の、戻れない道を描いた現代の「黙示録」。妻であること、そして母であるという立場に納まりきれない感情の熱波は、やがて家族そのものを飲み込む奔流となり、悲劇を引き起こしていく……。(チラシより。一部省略)

比較するコトは不可能ですが、2作のうち、どちらかを観るのであれば、僕は『ヴェラの祈り』をオススメします。“壮年夫婦の愛と魂の彷徨”を描いた作品で、静謐な展開の中に 観る者の心を突き刺すような激しさを秘めているからです。
「赤ちゃんができたの。でも、あなたの子ではない」というヴェラの言葉には ある深い意味が潜んでいて、おなじみの通俗的なドラマとは完全に異質。僕は かなり強烈なショックを受けると同時に、この映画は 女性の心、人間の内面を改めて考えてみるために、男性陣こそ見るべきだと感じました。(たゞし、彼氏や御主人と 一緒に観るコトを オススメしているワケでは ありません。その点、誤解のないように お願いしますね)。
もうひとつ、特筆すべきは撮影の素晴らしさ。幾何学的でいて情緒豊かな構図と色彩、凝った採光とライティングが生み出した驚くほど美しい画面に、僕は目を奪われ続けました。
ヴェラ役の マリア・ボネヴィー、夫:アレックス役の コンスタンチン・ラヴロネンコを中心に、出演者は脇役から端役に至るまで揃って巧演。
ズビャギンツェフ監督は、生まれ育った国も時代も異なるものの、イングマール・ベルイマンと血が繋がった弟…というような雰囲気を、僕は何となく感じました。
上映時間157分は、少しも長くはありません。

 

ビューティ エキスパート
大高 博幸
1948年生まれ。24歳の時、日本人として初めて、パリコレでメークを担当。『美的』本誌では創刊以来の連載「今月のおすすめ:大高博幸さんが選ぶベストバイ」を執筆。
■大高博幸の美的.com通信 https://www.biteki.com/article_category/ohtaka/

※価格表記に関して:2021年3月31日までの公開記事で特に表記がないものについては税抜き価格、2021年4月1日以降公開の記事は税込み価格です。

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